ショップハウス(テラスハウス)の保存と再活用——シンガポールの都市遺産
シンガポールのショップハウスは1〜3階建ての商住一体建築。植民地時代の歴史的建造物として保護されながら、今はレストランやブティックホテルに再活用されている。
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チャイナタウンやカンポン・グラムを歩くと、高層ビルとビルの間に突然、色鮮やかな2〜3階建ての細長い建物が連なっている場面に出くわす。
これがショップハウス(Shophouse)だ。
1階が商店、2〜3階が住居という構造の商住一体建築で、19世紀から20世紀初頭にかけて英国植民地時代のシンガポールに大量に建てられた。中国・マレー・インド・ヨーロッパの様式が混ざり合った独自の建築スタイルは、シンガポールという都市の成り立ちそのものを映している。
保存政策の歴史
1980年代まで、シンガポールは急速な都市開発の時代にあった。多くのショップハウスが老朽化を理由に取り壊され、高層住宅やオフィスビルに置き換えられた。
転換点になったのは1989年。都市再開発局(URA)が保存政策を打ち出し、チャイナタウン、リトルインディア、カンポン・グラム、ボートキー周辺などを保存地区として指定した。
現在、シンガポールには約6,500棟のショップハウスが現存すると言われており、URAの管理下で外観の保全が義務付けられている。
再活用の実態
保存されているからといって、空き家になっているわけではない。むしろ積極的に再活用されている。
飲食・ショップ
チャイナタウンのショップハウスには、地元の伝統的な食堂からスペシャルティコーヒーショップ、ミシュラン掲載レストランまで様々な飲食店が入っている。
カンポン・グラム周辺のアラブ・ストリートには、ハジ・レーンと呼ばれるエリアがあり、独立系ブランドやビンテージショップが立ち並ぶ。
ブティックホテル
外観はそのままに内部を改装したブティックホテルへの転用も増えている。1泊SGD 300〜700(34,500〜80,500円)程度のものも多く、歴史的建物の中に泊まる体験として人気がある。
オフィス・コワーキング
スタートアップや小規模の専門職事務所がショップハウスに入居するケースも多い。インテリアデザイン、建築、広告代理店など、クリエイティブ系の業種に好まれる。
購入・賃貸市場
ショップハウスは不動産市場でも特別な扱いを受けている。
外国人でも購入可能(他の住宅と異なり追加印紙税の対象外)なことから、富裕層や投資家に人気がある。チャイナタウン周辺の保存ショップハウスは、1棟あたりSGD 400万〜1,500万(4.6億〜17.25億円)程度の価格帯で取引される。
賃料は立地と状態で大きく変わるが、チャイナタウン近辺の1階商業スペースで月SGD 6,000〜15,000(69万〜172.5万円)程度が一つの目安だ。
在住者にとってのショップハウス
観光地としてのショップハウスに加え、在住者にとっては「シンガポールらしさ」を感じる日常の風景でもある。
HDBやコンドミニアムが整然と並ぶ中に残るショップハウスのエリアは、この国の歴史の厚みを体感できる場所だ。チャイナタウンのコーヒーショップで朝食を食べながら感じる時間の流れ方は、高層ビルの中のコーヒーチェーンとは別のものがある。