海外在住で「もしも」に備える——シンガポール在住者の遺言と相続の基礎
日本とシンガポールに資産が分かれる在住者は、相続が複雑になりやすい。遺言の必要性、現地資産の扱い、日本の相続税との関係など、考えておくべき論点を整理する。
この記事の日本円換算は、1SGD≒125円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(SGD)の金額を基準にしてください。
縁起でもない、と後回しにされる話ほど、海外在住では効いてくる。
日本とシンガポールの両方に銀行口座や資産があると、万一のときの手続きは想像以上に込み入る。元気なうちに整理しておくと、残された家族の負担が大きく変わる。お盆に一時帰国して親族と顔を合わせる時期は、こうした話を切り出すきっかけにもなる。
資産が二つの国に分かれる問題
海外在住者の相続で厄介なのは、資産が複数の国にまたがることだ。
日本の不動産や預金、シンガポールの銀行口座や投資、それぞれが別の国の制度の下にある。一方の国の手続きだけでは、もう一方の資産にアクセスできないことがある。家族が日本にいる場合、現地の口座の存在すら把握していないケースもある。
まず自分が「どの国に、何を、どれだけ持っているか」を一覧にしておくだけでも、残された人の手間は大きく減る。
遺言は「どこの遺言か」が問題になる
遺言を一通用意しておくと、相続手続きが整理されやすい。ただし、日本の資産には日本の遺言、現地の資産には現地の遺言、と分けて考える必要がある場面がある。
一国の遺言が他国の資産にどこまで効力を持つかは、国ごとの法制度や相続の準拠法によって変わる。複数国に資産がある場合、どちらの法律が適用されるかという論点が生じる。ここは一般論で判断せず、両国の事情に詳しい専門家に相談するのが安全だ。
日本の相続税との関係
日本の相続税は、被相続人や相続人の居住地・国籍・滞在年数などによって課税範囲が変わる仕組みになっている。海外に長く住んでいるかどうかで、海外資産が課税対象に含まれるかが変わり得る。
この判定は非常に複雑で、年によって制度も改正される。2026年時点の正確な取り扱いは、税理士など専門家に自分のケースで確認してほしい。記憶や一般論で「自分は対象外」と決めつけるのは危険だ。
家族と共有しておくこと
制度の話以前に、現実的に効くのは情報の共有だ。
どの国にどんな口座があるか、保険に入っているか、緊急連絡先は誰か。これらを家族と共有しておくだけで、いざというときの混乱が減る。すべてを一度に整える必要はない。資産の一覧、遺言の検討、専門家への相談、という順で少しずつ進めれば十分だ。制度は変わり得るので、節目ごとに見直す前提で備えておくのが現実的だ。