ガーデンシティの緑を維持する「見えない労働力」
シンガポールのガーデンシティは美しい緑に覆われています。その緑を維持するのは、低賃金の外国人労働者たちです。美しい都市の裏側にある労働構造を解説します。
この記事の日本円換算は、1SGD≒115円で計算しています(2026年4月時点)。
シンガポールを訪れた人が共通して驚くことの一つが、道路沿いの緑の豊かさだ。高速道路の分離帯、MRT高架下、HDBの植え込み、公園をつなぐ緑道——これほど密に緑が管理された都市は、熱帯地域では極めて珍しい。
しかし、誰がこれを維持しているのかを考える人は少ない。
ガーデンシティ政策の起源
1967年、リー・クアンユーはシンガポールを「熱帯のガーデンシティ」にするという構想を提唱した。きっかけは外国投資家への印象改善だったとされる。清潔で緑豊かな都市というビジュアルが、「ここで事業をしたい」という動機に繋がるという発想だ。
以来50年以上にわたり、国家公園庁(NParks)が全国の緑地管理を統括し、「Garden City」から「City in a Garden」へのリブランドも行われた。ガーデンズ・バイ・ザ・ベイはその象徴だ。
緑地管理の規模
シンガポールの公園・緑地面積は国土の約47%と言われ(都市・住宅地を含む広義の緑地)、実際の公園・自然保護区だけでも数千ヘクタール規模だ。NParksが管理する街路樹は約700,000本以上とされる。
これだけの規模の緑地を維持するためには、日常的な剪定・除草・施肥・病害虫管理が必要だ。専門技術を要する高所作業(街路樹の剪定)から単純な草刈りまで、膨大な人手がかかる。
誰がやっているのか
こうした労働力の大部分を担っているのが、マレーシア・インドネシア・バングラデシュなどからの外国人労働者だ。NParksやその委託業者に雇用され、炎天下の中での作業を毎日こなしている。
月収は600〜900SGD(約69,000〜103,500円)程度で、全体的な低技能外国人労働者の水準に沿っている。熱帯の屋外労働は過酷で、熱中症リスクや高所作業の危険も伴う。
「見えない存在」になる理由
早朝や夕方に作業が集中するため、彼らの仕事は多くの市民や観光客の目に入りにくい。公園でジョギングする人が来る前に草刈りが終わっており、通り過ぎる車には剪定作業が「いつの間にか終わっている」ように見える。
都市の美しさを維持する労働が、主要な生活動線から外れた時間帯・場所で行われることで「不可視化」されている。
ガーデンシティの持続可能性
外国人労働者が担うこの労働力を自動化する試みもある。NParkとNTUの共同研究で、草刈りロボットや樹木センサーの開発が進んでいる。ただし完全自動化はまだ先で、当面は人力への依存が続く見込みだ。シンガポールの緑の美しさは、技術と人力のハイブリッドで維持されている。