シンガポールのHDBとコンドミニアム、価格差以外に何が違うのか
シンガポールのHDBとコンドミニアムは「安い/高い」では語れない。法的制限・転売条件・外国人所有可否・CPF使用条件の構造的な違いを「何の権利を買っているか」という視点で整理する。
この記事の日本円換算は、1SGD≒124円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(SGD)の金額を基準にしてください。
シンガポールのHDB(公営住宅)とコンドミニアム(民間住宅)の違いは、価格だけではない。買っているのは「住む場所」ではなく「権利の束」だ。その権利の中身が根本的に異なる。
所有権の構造が違う
HDB: 99年のリース権(Leasehold)。HDBはシンガポール政府が所有する土地の上に建てられており、購入者は最長99年の使用権を取得する。99年が経過すると、政府に返還される。
コンドミニアム: 99年リースまたはフリーホールド(Freehold)。フリーホールドの場合は永続的な所有権。ただしシンガポール政府は土地収用法(Land Acquisition Act)に基づき、公共目的で土地を収用する権利を持っている。
HDBの「所有」は、日本の分譲マンションの感覚とは異なる。日本のマンションは区分所有権(土地の持分含む)だが、HDBは「99年間住む権利」に近い。築50年のHDBの価値は、残りリース期間49年分しかない。
外国人が購入できるか
| 物件タイプ | シンガポール市民 | PR(永住権者) | 外国人 |
|---|---|---|---|
| BTO(新築HDB) | ○ | ×(申請不可) | × |
| Resale HDB | ○ | ○(条件あり) | × |
| コンドミニアム | ○ | ○ | ○ |
| ランデッドプロパティ | ○ | ○(許可制) | ×(SLA許可が必要) |
外国人はHDBを購入できない。これが最も大きな制限だ(HDB Act)。シンガポール市民と結婚している場合など例外はあるが、基本的にEPホルダーの日本人はHDBを購入できない。
コンドミニアムは外国人でも購入可能だが、ABSD(Additional Buyer's Stamp Duty)60%が課される。SGD 1,500,000(約1.86億円)のコンドを買うと、ABSDだけでSGD 900,000(約1.12億円)。物件価格の1.6倍を支払う計算だ。
転売条件が全然違う
HDB:
- MOP(Minimum Occupation Period): BTOは5年、Resaleは5年。この期間内は転売不可
- 市民・PR以外への転売不可: 外国人にHDBを売ることはできない
- 転売益: HDBは値上がりした場合でもキャピタルゲイン税はかからない(シンガポールには個人のキャピタルゲイン税がない)
- 購入回数制限: 2軒目以降のHDB購入には厳しい条件がある
コンドミニアム:
- 転売制限なし: SSD(Seller's Stamp Duty)の期間(購入から3年以内)を除き、いつでも誰にでも売れる
- SSD: 購入1年以内に売却で12%、2年以内で8%、3年以内で4%
- 外国人への売却可: 市場が広い分、流動性は高い
HDBは「住むための住宅」として設計されているため、投機的な売買を抑制する仕組みが組み込まれている。コンドミニアムは市場原理で動く。
CPFの使い方が変わる
CPFのOrdinary Account(OA)を住宅購入に使えるが、HDBとコンドで条件が異なる(CPF Board公式)。
HDB購入にCPFを使う場合:
- OA残高を全額使える
- CPF Housing Grant(助成金)も利用可能(最大SGD 80,000)
- 売却時にCPF OAに返還義務あり(使用額 + 2.5%の利息分)
コンド購入にCPFを使う場合:
- OA残高を使えるが、Valuation Limit(評価額)までの制限あり
- Housing Grantは適用外
- 売却時の返還義務はHDBと同様
CPFでHDBを購入し、値上がり後に売却してコンドにアップグレードするのは、シンガポール市民のよくあるキャリアパスだ。だがCPFへの返還(利息込み)を考えると、手元に残る現金は期待より少ないケースが多い。
賃貸に出す場合のルール
HDB:
- MOP(5年)経過後、HDB全体を賃貸に出す場合はHDBの承認が必要
- 一部の部屋だけを賃貸に出す場合は条件が緩い
- 外国人への賃貸は可能(非マレーシア人の比率上限あり)
- 賃貸期間の最低は6ヶ月
コンドミニアム:
- 賃貸に出す制限は基本的にない
- 管理組合のルールに従う必要はある
- 短期賃貸(Airbnb等)は禁止されている(3ヶ月未満の賃貸は不可、URA規制)
日本人にとっての実際の選択肢
日本人のEPホルダーがシンガポールで住居を確保する場合、選択肢は実質的に2つだ。
- コンドミニアムを賃貸する: 月SGD 2,500〜5,000(約31万〜62万円)。駐在員の多くはこのパターン
- HDBを賃貸する: 月SGD 1,500〜3,000(約19万〜37万円)。コンドより安いがプール・ジムなどの設備はない
購入する場合はコンドミニアム一択だが、ABSD 60%のため経済合理性は低い。SGD 1,500,000のコンドを購入するために合計SGD 2,400,000(約2.98億円)を払うことになる。
HDBとコンドの違いは「価格の高低」ではなく「何の権利を買うか」の違いだ。HDBは政府の社会政策の産物で、コンドミニアムは市場の産物。この構造を理解した上で、賃貸か購入かを判断した方がいい。