エアコンが映すタイの階層——涼しさは買えるものになった
タイの猛暑のなか、誰が冷気の中にいて誰が外にいるか。エアコンの有無が住まい・仕事・健康に引く境界線を、家賃や電気代の具体から読み解く。
この記事の日本円換算は、1THB≒4.9円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(THB)の金額を基準にしてください。
タイで暑さは平等ではない。同じ40度の昼でも、ガラス張りのオフィスで震える人と、屋台の鉄板の前で汗を流す人がいる。冷気は天候ではなく、買えるかどうかの問題になっている。
ファン部屋とエアコン部屋の家賃差
賃貸物件は「ファン付き」と「エアコン付き」で価格帯がはっきり分かれる。地方都市のワンルームで、扇風機のみの部屋が月THB 2,500〜3,500(12,250〜17,150円)程度、同じ広さでエアコン付きだと月THB 4,500〜6,000(22,050〜29,400円)程度になることが多い(推定)。
差額は涼しさの代金だ。さらにエアコンを使えば電気代が上乗せされる。タイの電気料金は使用量に応じて単価が上がる仕組みで、夏場にエアコンを長時間回すと請求額が跳ね上がる。安い部屋を選んだ人ほど、電気代でも涼しさを諦めることになる。
仕事の場所が体感温度を決める
オフィスワーカーは冷房の効いた空間で一日を過ごす。一方、建設作業員、屋台の店主、バイクタクシーの運転手は、真夏の屋外で長時間働く。同じ都市の同じ時間に、体が浴びる熱量がまったく違う。
冷気のあるモールは、買い物の場であると同時に避暑地でもある。週末、特に買う予定がなくても家族でモールへ行く人が多いのは、家のエアコン代を節約しつつ涼める公共の冷蔵庫だからだ。
健康へのしわ寄せ
熱中症のリスクは屋外労働者に偏る。冷房の中で働く人にとって猛暑は不快の問題だが、外で働く人には命の問題になりうる。タイの暑季は年々厳しくなっており、この差は広がる方向にある。
子どもの学習環境にも影を落とす。冷房のある学校・塾に通える子と、扇風機だけの教室で汗を流す子では、集中できる時間が変わる。涼しさの格差が、静かに学力の格差に滲み出る。
涼しさが新しい贅沢になる時代
かつて贅沢の象徴は車や宝飾だった。気候変動が進むタイでは、安定した冷気そのものが上位財になりつつある。停電に強い自家発電付きのコンドミニアム、断熱性の高い新築物件は、その「涼しさの安定供給」を売り物にしている。
エアコンの室外機がびっしり並ぶ高層階と、室外機のない低層の路地。その対比を、ただの設備の差ではなく、暑さという自然をどこまで遠ざけられるかの階層と見ると、タイの都市の輪郭が違って見えてくる。