クロントイとバンコクの運河——「見えない川沿いコミュニティ」が都市に存在する理由
バンコクは元々水の都だった。今も都心のクロントイ地区には運河沿いに貧困コミュニティが残る。この「都市の影」がどう形成されたか、在住外国人が知らない都市の構造を整理する。
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スクンビットのコンドミニアムから徒歩15分圏内に、アジア最大級ともいわれる低所得者コミュニティがある。
クロントイ(Klong Toey)地区だ。
バンコクの中心部に位置しながら、近代開発の波から取り残された木造住宅・掘立て小屋が密集し、数万人(推定)が暮らすエリアだ。一方で同じ地区に大きな市場(クロントイ市場)があり、バンコクのシェフや主婦が毎朝食材を買いに来る。
なぜこのエリアが存在するのか
バンコクが運河(クロン)沿いに発展した時代、クロントイは港湾作業員・市場労働者のコミュニティとして形成された。土地の権利が整備される前から人が住み着いており、後の都市開発でも立ち退かせることが難しい状況が続いてきた。
タイには「勅令土地」と呼ばれる国有地があり、その上に長年住んできた人々が「居住権」的な状態で住み続けているケースがある。クロントイはその典型例だ。
コミュニティの現実
クロントイには学校・医療施設・マーケットがあり、独自の経済圏が形成されている。バンコク都心で働く人の中にも、クロントイから通勤している人は多い。
NGO「ドゥアン・プラティープ財団」など、地域支援を行う組織も活動しており、教育・医療・職業訓練が提供されている。
在住外国人が「見ない」理由
スクンビット・シーロム・プロンポン——外国人が日常的に過ごすエリアからは、クロントイの存在は見えにくい。タクシーで通り過ぎることはあっても、意識的に足を向けることは少ない。
クロントイ市場(公開市場)は早朝に訪れると活気があり、危険でもない。バンコクの食材流通の「根っこ」を見たいなら、一度早朝に来る価値がある。
都市格差の縮図
クロントイは、高層コンドミニアムが立ち並ぶ都市の中に貧困コミュニティが並存するという、バンコクの構造的な格差を象徴する場所だ。
タイの経済成長が続く中で、こうした地域をどう扱うかは政治的・倫理的に未解決の問いだ。再開発=立ち退きという形になることが多く、それに対するコミュニティの抵抗と行政の対立は今も続いている。