タイのココナッツは「捨てるところがない」——1本の木が生む7つの産業
タイは世界第6位のココナッツ生産国。果肉・水・油・殻・繊維・葉・木幹——1本のココナッツの木から7つの製品が生まれ、それぞれが別の産業チェーンに乗る。
この記事の日本円換算は、1THB≒4.3円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(THB)の金額を基準にしてください。
タイのセブンイレブンでココナッツウォーターのパックがTHB 25(約108円)で売られている。日本のスーパーで同じものを買えば300〜500円。この価格差は、タイがココナッツの生産国だからというだけではない。ココナッツの実から水を取った後の果肉・殻・繊維がそれぞれ別の産業に流れ、廃棄率がほぼゼロに近いからだ。1つの原材料を完全に使い切る構造が、個々の製品のコストを下げている。
1本のココナッツから生まれる製品
| 部位 | 製品 | 産業 |
|---|---|---|
| 果肉 | ココナッツミルク、ココナッツクリーム、デシケイテッドココナッツ | 食品加工 |
| 水 | ココナッツウォーター | 飲料 |
| 油 | ココナッツオイル(食用・化粧品用) | 食品・美容 |
| 殻 | 活性炭、炭、工芸品 | 化学・工芸 |
| 殻の繊維(コイア) | ロープ、マットレス、園芸用土 | 繊維・農業資材 |
| 葉 | 屋根材、編み物 | 建材・工芸 |
| 木幹 | 建材、家具 | 建設・家具 |
タイ南部のナコーンシータマラート県やスラーターニー県はココナッツ農園が密集しており、周辺にはこれらの副産物を加工する中小企業が集積している。
ココナッツミルクの輸出大国
タイはココナッツミルクの世界最大級の輸出国だ。日本のスーパーで見かける缶入りココナッツミルクの多くはタイ製で、チャオコー(Chaokoh)やアロイディー(Aroy-D)はタイのブランドだ。
タイ料理においてココナッツミルクは不可欠な食材で、トムカーガイ(ココナッツミルクのスープ)、グリーンカレー、レッドカレー、マッサマンカレー、デザートのカオニャオマムアン(マンゴースティッキーライス)——いずれもココナッツミルクがベースだ。
バンコクの屋台でグリーンカレーを1皿THB 50〜80(約215〜344円)で食べられるのは、ココナッツミルクが安いからだ。ココナッツミルクの原価が上がれば、タイ料理全体の価格が上がる。
猿の収穫問題
タイのココナッツ産業は「猿を使った収穫」が国際問題になった。訓練された猿(ブタオザル)がヤシの木に登って実を収穫する伝統的な方法だが、動物愛護団体から「強制労働」として批判を受け、欧米の一部の小売チェーンがタイ産ココナッツ製品のボイコットを表明した。
これを受けて、タイのココナッツ業界は機械収穫への移行を進めている。ただし人力と猿による収穫の方がコストは安く、小規模農家にとって機械化は投資負担が大きい。動物福祉と農家の生計のバランスは、簡単には解決しない。
活性炭という意外な輸出品
ココナッツの殻から作る活性炭は、タイの意外な輸出品だ。水の浄化フィルター、空気清浄機、金の精錬——活性炭の用途は広く、ココナッツ殻由来の活性炭は品質が高いとされている。
タイのココナッツ経済を見ると、「副産物をどれだけ活用できるか」が産業全体の効率を決めていることがわかる。日本では廃棄されるものが、タイでは別の産業の原材料になっている。この循環構造は、ココナッツに限らず、タイの農業全体に見られる特徴でもある。