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バンコクの空に立つクレーンの数を数えたことがあるか——建設ラッシュの経済学

バンコクでは常時200本以上のタワークレーンが稼働しているとされる。コンドミニアムの空室率が20%を超える地区もあるのに、なぜ建設は止まらないのか。不動産開発の構造を解剖する。

2026-05-10
タイバンコク不動産建設ラッシュコンドミニアム

この記事の日本円換算は、1THB≒4.3円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(THB)の金額を基準にしてください。

バンコクのBTSプロンポン駅からアソーク駅までの800mを歩くと、建設中のタワーが少なくとも3棟は視界に入る。コンドミニアムの在庫は積み上がり続けているのに、新しいプロジェクトが次々と発表される。この矛盾は、タイの不動産市場が「住む場所を売っている」のではなく「投資商品を売っている」と考えると解ける。

プリセール方式という仕組み

タイのコンドミニアム開発は「プリセール」が基本だ。建設が始まる前——場合によっては設計図しかない段階で、デベロッパーが販売を開始する。購入者は頭金として物件価格の10〜20%を分割で支払い、残金は竣工時にローンか一括で払う。

デベロッパーにとっての旨味はここにある。建設資金の大部分をプリセールの頭金で賄えるので、自己資金が少なくてもプロジェクトを立ち上げられる。銀行借入を最小限にできる。建設が完了するまでの2〜3年間、購入者のお金が実質的な無利子の資金調達として機能する。

空室率が高くても止まらない理由

バンコク郊外のコンドミニアムでは空室率が30%を超える物件もある。CBREの調査によれば、バンコク全体の新築コンドミニアム在庫は約6万戸(2024年時点)。それでも新規プロジェクトが止まらないのはなぜか。

答えは「デベロッパーのビジネスモデルが販売時に完結しているから」だ。プリセールで物件価格の70〜80%が売れれば、デベロッパーは利益を確定できる。その物件に人が住むかどうか、賃貸に出して借り手がつくかどうかは、デベロッパーにとっては二次的な問題でしかない。

外国人と49%ルール

タイでは外国人がコンドミニアムの「49%枠」で所有権(フリーホールド)を取得できる。1棟のコンドミニアムの全住戸のうち、外国人名義にできるのは面積ベースで49%まで。残りの51%はタイ国籍者名義でなければならない。

この49%枠が投資市場を動かしている。外国人購入者——中国、香港、シンガポール、そして日本の投資家が、バンコクのコンドミニアムを「利回り商品」として買う。賃貸利回りは年3〜5%程度。東京の区分マンションと大差ないが、物件価格が安い分、参入しやすい。スクンビットの1ベッドルームが300万〜500万THB(約1,290万〜2,150万円)で買える。

建設現場の労働力

バンコクの建設現場で働くのは、ほとんどがミャンマー、カンボジア、ラオスからの出稼ぎ労働者だ。日給300〜400THB(約1,290〜1,720円)。タイの最低賃金(2024年時点で日額328〜354THB、地域差あり)ギリギリの水準で、タイ人がやりたがらない仕事を担っている。

建設現場のすぐ隣に、ブリキとトタンで組まれた労働者の宿舎がある。プロジェクトが終わると解体されて次の現場に移る。バンコクのスカイラインを作り上げている人たちは、そのスカイラインの中に住む場所を持っていない。この対比はバンコクに住んでいると日常的に目に入る光景だが、慣れてしまうと見えなくなる。

在住者にとっての建設ラッシュ

建設ラッシュは騒音と粉塵という形で在住者の日常に影響する。コンドミニアムを借りる際、隣接地が空き地なら要注意だ。空き地は将来の建設用地である可能性が高い。契約期間中にクレーンが立ち上がり、朝7時から杭打ちの振動が響くことになりかねない。

物件を探すときは、隣接地の建築許可をデベロッパーやプロパティエージェントに確認する手がある。タイの建築許可はオンラインで公開されていないことが多いが、現地の不動産仲介業者は情報を持っていることがある。

止まるとしたら何が引き金か

バンコクの建設ラッシュが止まるシナリオは2つ考えられる。1つは金利の急騰。プリセールの残金支払い時にローン金利が上がると、購入者がローン審査に通らずキャンセルが増える。もう1つは外国人投資家の撤退。中国経済の減速は、すでにバンコクの不動産市場に影響を与え始めている。

ただし、1997年のアジア通貨危機でバンコクの不動産バブルが崩壊した後も、数年で開発は再開した。この都市は「建て続けること」を止めた期間が極めて短い。

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