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一人が三つの仕事を持つ国——タイの副業が当たり前になった構造

タイでは会社員が副業を掛け持ちするのが珍しくない。なぜ一つの仕事だけで生きないのか、所得・デジタル化・起業文化の三点から副業社会の構造を読み解く。

2026-08-20
副業ギグ経済働き方キャリアタイ

この記事の日本円換算は、1THB≒4.9円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(THB)の金額を基準にしてください。

タイで知り合った人に職業を聞くと、一つの答えが返ってこないことがある。「会社員で、週末はオンラインで物を売って、ときどき配達もしている」。複数の収入源を持つのが、この国ではむしろ標準だ。日本の「一社専従」の感覚とはかなり違う。

一つの給料では足りない現実

副業が広がる最も大きな理由は、本業の給料だけでは生活に余裕が出にくいことだ。物価が上がるなかで、固定給だけに頼るのはリスクが高い。複数の収入源を持つことは、生活防衛の手段でもある。

これは弱さの表れではなく、適応だ。一つの収入が途絶えても、他で補える。経済が不安定なときほど、収入を分散させる発想は理にかなう。タイの人々は、リスクを一点に集中させない働き方を自然に選んでいる。

デジタルが副業の敷居を下げた

スマホ一台で物を売り、配達の仕事を受け、オンラインで稼げるようになったことが、副業を一気に身近にした。実店舗を構えなくても、SNSやアプリを使えば誰でも小さな商売を始められる。

特にオンライン物販と配達・配車の仕事は、空いた時間に好きなだけ働ける柔軟さがある。本業の合間、退勤後、休日——細切れの時間を収入に変えられる。デジタルのインフラが、副業の参入障壁を劇的に下げた。これはタイに限らないが、タイの人々の起業気質と相性が良かった。

商売好きという文化的土壌

タイには、もともと小さな商売を厭わない文化がある。屋台、露店、小売——自分で何かを売って稼ぐことが、生活に溶け込んでいる。雇われることと商売することの境界が、日本より低い。

だから会社員が副業で物を売り始めるのに、心理的な抵抗が少ない。「会社員は会社の仕事に専念すべき」という規範が弱く、むしろ稼げる手段は活かすのが当然という空気がある。この文化的土壌が、副業社会を支えている。

働き方の多様さから学べること

一人が複数の顔を持つタイの働き方は、収入の分散・時間の柔軟な活用・自立した稼ぐ力という点で、日本の会社員にも示唆がある。一つの会社に人生を預ける時代が揺らぐなか、複数の収入源を持つ発想は普遍的な価値を持ち始めている。

タイで暮らすと、「あなたは何をしている人か」という問いに一言で答えられない人の多さに気づく。それは混乱ではなく、複数の足で立つ強さの表れだ。働き方の固定観念を、この国は静かに揺さぶってくる。

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