Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
文化・社会構造の分析

バンコクの「底辺」はイサーン出身者で支えられている——タイ最大の内部移住の構造

タイ東北部イサーンからバンコクへの出稼ぎは数十年続く構造的な問題だ。タクシードライバー・建設労働者・工場作業員として都市に流入するイサーン人がバンコクの経済基盤を支えている。

2026-07-06
イサーン出稼ぎ地域格差労働タイ社会

この記事の日本円換算は、1THB≒4.3円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。

バンコクのタクシーに乗って、「出身はどこですか?」と聞くと、高い確率で「コーン・ケン」「ウドーンターニー」「ナコーンラーチャシーマー」という地名が返ってくる——全てイサーン(東北タイ)の都市だ。

建設現場で働く作業員、市場の運搬業者、工場の生産ライン——タイの第一次・第二次産業の労働力の多くがイサーン出身者で構成されている。

イサーンとは何か

タイ東北部22県を指すイサーンは、タイ全人口の約3分の1が住む(推定)最大の地方だ。メコン川沿いにラオスとカンボジアに接し、「ラオ系」と呼ばれる文化・言語的背景を持つ住民が多い。

農業が主な産業だが、天候に左右されやすく収入は不安定だ。平均所得はバンコクの数分の一と言われており(推定)、都市部との経済格差がここ数十年で拡大してきた。

なぜバンコクに来るか

単純な経済的動機だ。イサーンで農業に従事して月THB 5,000〜8,000(21,500〜34,400円)の収入だとすれば、バンコクで肉体労働に従事すれば月THB 10,000〜15,000(43,000〜64,500円)になることが多い(推定)。

子どもを大学に行かせるため、実家の借金を返すため、母親の薬代を稼ぐため——具体的な目的を持ってバンコクに来る人が多い。

バンコクの「隠れたイサーン」

バンコクで安い飯屋を探すとイサーン料理の屋台に行き着くことが多い。ソムタム(パパイヤサラダ)、ガイヤーン(焼き鳥)、カオニャオ(もち米)——これらはイサーン料理の代表格で、出稼ぎ労働者が「故郷の味」として広めたものがバンコク全市に定着した。

つまりバンコクのストリートフード文化の一部はイサーン人の移住によって作られている。

政治とイサーン

タクシン元首相(及びその後継政治勢力)がイサーンで圧倒的な支持を得てきた歴史は、この地域格差と政治の関係を示している。農村・低所得層への現金給付・農産物価格保証など「イサーンに直接届く政策」が票に変わる構造は、タイの政治を理解する上で外せない。

都市エリートとイサーン農村の対立構図は、タイの政治的不安定さの根にある。バンコクに住む外国人はこの構図を知らないまま過ごしがちだが、2010年代の赤シャツ運動・黄シャツ運動の地理的分断はその可視化だった。

コメント

読み込み中...