バンコクの「底辺」はイサーン出身者で支えられている——タイ最大の内部移住の構造
タイ東北部イサーンからバンコクへの出稼ぎは数十年続く構造的な問題だ。タクシードライバー・建設労働者・工場作業員として都市に流入するイサーン人がバンコクの経済基盤を支えている。
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バンコクのタクシーに乗って、「出身はどこですか?」と聞くと、高い確率で「コーン・ケン」「ウドーンターニー」「ナコーンラーチャシーマー」という地名が返ってくる——全てイサーン(東北タイ)の都市だ。
建設現場で働く作業員、市場の運搬業者、工場の生産ライン——タイの第一次・第二次産業の労働力の多くがイサーン出身者で構成されている。
イサーンとは何か
タイ東北部22県を指すイサーンは、タイ全人口の約3分の1が住む(推定)最大の地方だ。メコン川沿いにラオスとカンボジアに接し、「ラオ系」と呼ばれる文化・言語的背景を持つ住民が多い。
農業が主な産業だが、天候に左右されやすく収入は不安定だ。平均所得はバンコクの数分の一と言われており(推定)、都市部との経済格差がここ数十年で拡大してきた。
なぜバンコクに来るか
単純な経済的動機だ。イサーンで農業に従事して月THB 5,000〜8,000(21,500〜34,400円)の収入だとすれば、バンコクで肉体労働に従事すれば月THB 10,000〜15,000(43,000〜64,500円)になることが多い(推定)。
子どもを大学に行かせるため、実家の借金を返すため、母親の薬代を稼ぐため——具体的な目的を持ってバンコクに来る人が多い。
バンコクの「隠れたイサーン」
バンコクで安い飯屋を探すとイサーン料理の屋台に行き着くことが多い。ソムタム(パパイヤサラダ)、ガイヤーン(焼き鳥)、カオニャオ(もち米)——これらはイサーン料理の代表格で、出稼ぎ労働者が「故郷の味」として広めたものがバンコク全市に定着した。
つまりバンコクのストリートフード文化の一部はイサーン人の移住によって作られている。
政治とイサーン
タクシン元首相(及びその後継政治勢力)がイサーンで圧倒的な支持を得てきた歴史は、この地域格差と政治の関係を示している。農村・低所得層への現金給付・農産物価格保証など「イサーンに直接届く政策」が票に変わる構造は、タイの政治を理解する上で外せない。
都市エリートとイサーン農村の対立構図は、タイの政治的不安定さの根にある。バンコクに住む外国人はこの構図を知らないまま過ごしがちだが、2010年代の赤シャツ運動・黄シャツ運動の地理的分断はその可視化だった。