イサーン——タイの「見えない内陸」が実は国のエンジンだった
タイ東北部「イサーン」はバンコクから遠く観光客が来ないが、タイ人口の3分の1以上が暮らす巨大な地域。独自の言語・文化・料理を持ち、バンコクの出稼ぎ労働の出発点でもある。
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バンコクのマッサージ師、コンビニのレジ係、工場の作業員——その多くがイサーン(タイ東北部)出身だ。
タイの経済が国際的な注目を集める中で、イサーンはあまり語られない。しかしタイ人口の3分の1以上(推定)が暮らすこの地域なしに、タイ社会は成立しない。
イサーンとはどこか
イサーンはタイ東北部の総称で、コラート高原を中心とした乾燥した台地が広がる。コンケーン、ウドンタニ、ナコンラーチャシーマー(コラート)、ウボンラーチャタニーなどの都市が主要拠点だ。
メコン川を境にラオスと隣接しており、文化的にもラオスとの共通性が高い。タイ語と似ているがラオス語に近い「イサーン語(コラート語)」を話す人が多く、バンコク中心部の標準タイ語とは異なる。
なぜ出稼ぎに出るのか
イサーンは農業地帯だが、雨量が少なく旱魃が多い。稲作の収量が不安定で、農業収入だけでは生活が難しい家庭が多い。
1960〜70年代以降、バンコクへの出稼ぎが本格化し、工場・建設・サービス業で働くイサーン出身者がバンコクの経済を下から支えてきた。
「バンコクで稼いで仕送りする」という経済モデルが農村を支えており、農村の消費行動はバンコクから送られる仕送りに大きく依存している側面がある。
イサーン料理という個性
タイ料理の中でも、イサーン料理は独特のポジションを持つ。
ソムタム(青パパイヤのサラダ):プリックキーヌー(激辛唐辛子)とナンプラーと砂糖とライムで作る。バンコクでも定番だが、本場イサーンではさらに辛い。
カオニャオ(もち米):イサーンではご飯は白米ではなくもち米。手で丸めて食べる。
ガイヤーン(炭火焼き鶏):シンプルな味付けの鶏を炭でじっくり焼く。ソムタムとカオニャオのセットで食べるのが定番。
バンコクの街角でも「イサーン料理屋」は人気があり、「本場の辛さ」でソムタムを出す店はイサーン出身のコックが多い。
政治との接点
イサーンは選挙政治でも重要な地域だ。
人口が多く、農村部の有権者が多いイサーンの支持が選挙結果を左右することがある。タクシン政権(2001年〜)がイサーンを中心とした農村票で強い基盤を持ったことは、タイ政治の転換点として知られている。
「都市対農村」「バンコク対地方」という軸でのタイ政治理解には、イサーンの存在が欠かせない。
イサーンへ旅する視点
観光客がほとんど来ないイサーンを訪れることは、「本物のタイ」に近い体験になることがある。
ワット・プー(ユネスコ世界遺産に近い遺跡)、パーノムルン(クメール様式の寺院遺跡)、コンケーンの街——それぞれ全く異なる顔を持つ。バンコクを何度も訪れた人が「次はイサーンへ」と選ぶのは理にかなっている。