同じ「土地の権利書」が6種類ある——タイの土地権利証を読み分けるための実務
タイの土地には所有権を証明する書類が複数あり、格が違う。チャノートとノーソー3コーの違い、売買できないもの、30日の公示が必要なもの。物件を検討する前に押さえておく実務。
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タイで土地を含む物件の話をしていると、相手が「権利書はある」と言う場面がある。
だが、この「権利書」という言葉は複数の別の書類を指しうる。そして書類の種類によって、売れるもの・売れないもの、担保に入れられるもの・入れられないもの、境界が確定しているもの・していないものが分かれる。
外国人は原則としてタイの土地を直接所有できない。それでも、この分類を知っておく意味は大きい。コンドミニアムを買う場合も、長期リースを検討する場合も、その建物の下にある土地の権利証の格が、取引の安全性を左右する。
上から順に並べると格差が明確になる
タイの土地関係書類を、権利の強い順に整理するとこうなる。
チャノート(ノーソー4ジョー)。これが唯一の完全な土地所有権証明だ。土地局が発行し、GPSによる測量で国の測地基準に紐づけられ、現地にはコンクリートの境界杭が番号付きで打たれている。自由に売買でき、抵当権も設定できる。譲渡に際して公示期間は必要ない。
ノーソー3コー。占有権が確認された土地で、航空測量によって区画の点が記録されている。境界はチャノートほど厳密ではないが確定している。公示なしで譲渡でき、分割も可能だ。郡の土地担当官が発行する。
ノーソー3。占有と使用の権利は認められるが、完全な所有権ではない。決定的な違いは、測量が行われていないため境界が確定していないことだ。境界は隣地所有者の確認に依存する。譲渡は可能だが、所有権を争う者がいないかを確認するための30日の公示期間が必要になる。境界と所有権をめぐる紛争が起きやすい類型だ。
ノーソー2。一時的な占有・利用の権利のみ。相続以外では売却・譲渡できない。6ヶ月以内に利用を開始し、3年以内に完了させる義務が付く。
ソーコー1。占有と利用の申告だが、土地局による確認を経ていない。1972年以降は新規発行されていない。占有の移転か相続で移るが、上位の権利に昇格させるには裁判所の承認が必要になる。
ポーボートー5。名前は権利書のように見えるが、これは権利を何も与えない。固定資産税の納付記録にすぎない。歴史的にはソーコー1の申請に使われた。
「30日の公示」が意味すること
この一覧で実務上いちばん効くのは、ノーソー3の30日公示だ。
なぜ公示が必要なのか。境界が測量されていないからだ。書類上の面積と現地の形が一致している保証がない。隣の土地の持ち主が「その塀の内側は自分の土地だ」と主張する可能性が残っている。
だから譲渡の前に公示して、異議があれば申し出てくれと呼びかける。この30日は、書類の不確かさを社会的な手続きで埋めるための時間だ。
逆に言えば、公示が不要な書類(チャノート、ノーソー3コー)は、国家がその境界を保証しているということになる。測量の精度が、手続きの長さを決めている。
この構造は、書類の格付けが単なるランク付けではないことを示している。測量技術の有無という物理的な違いが、法的な扱いの違いに変換されている。地面の上の杭が、法律の条文に対応している。
昇格の経路がある
もう一つ知っておくとよいのは、これらの区分が固定ではないという点だ。
ノーソー3はノーソー3コーに切り替えられ、さらにチャノートに昇格させることができる。手続きは地域の土地事務所への申請による。測量が済めば、書類の格が上がる。
これは、タイの土地登記制度が未完成のまま運用されてきた歴史の反映だ。国土全体の精密な測量を一度に終えることは、どの国でも難しい。だからタイは「まだ測っていない土地」にも暫定的な権利を認め、測量が進むにつれて順次昇格させる方式を採った。
昇格の可能性は、価格にも影響する。ノーソー3の土地は、将来チャノートに昇格しうるという期待を含んだ値段で取引されることがある。ただしその昇格には時間も費用もかかり、境界確定の過程で面積が減ることもある。
外国人としてどこを見るか
具体的に、在住者が実際に確認する場面を想定する。
コンドミニアムを買う場合。建物の下の土地がチャノートであるかを確認する。コンドミニアムの分譲登記は、土地の権利が明確でなければ成立しない。売主や仲介業者に「土地の権利証の種類」を尋ねて、答えが曖昧なら深追いする価値がある。
長期リースを結ぶ場合。タイでは土地の賃借権を30年まで登記できる。ただし登記できるのは、権利証の格が十分な土地に限られる。境界が確定していない土地のリースを登記しようとして、手続きが止まることがある。
戸建てや土地付き物件を配偶者名義や法人名義で検討する場合。権利証の種類と現地の杭の有無を、自分の目で確認する。書類のコピーだけで判断しない。現地に番号付きのコンクリート杭があるかどうかは、チャノートかどうかの手がかりになる。
土地事務所での原本確認。権利証は土地事務所に記録が残っている。売主が提示したコピーと事務所の記録が一致しているかは、弁護士を通じて確認できる。これを省略する理由はほとんどない。
なお、権利証に押されているガルーダ(国章)の色が書類の種類によって違うという説明を見かけることがあるが、色の対応関係については情報源によって記述が揃っていない。色だけで判断するのは避けたほうがいい。書類上の正式名称と土地事務所の記録で確認するのが確実だ。
制度の未完成さを前提にする
日本の登記制度に慣れていると、この多層構造は不完全に見える。すべての土地に同じ形式の登記があり、境界は確定していて、公図がある——という前提が崩れる。
だが、これはタイに限った話ではない。土地の権利を国家が一元的に管理する制度は、歴史的にはかなり新しい発明だ。多くの国で、慣習的な占有と近代的な登記が長い移行期を経て置き換わってきた。タイの6種類の書類は、その移行の途中の地層が同時に見えている状態だ。
つまり、書類の格差は制度の欠陥というより、制度が拡張中であることの記録だ。そう捉えると、確認すべき項目が明確になる。どの地層に属する土地なのか。その地層はどこまで国家が保証しているのか。
土地の話が出てきたら、まず書類の正式名称を聞く。それだけで、話の性質がかなり変わる。