タイの不敬罪(112条):外国人が知るべきリスクと現地での振る舞い方
タイ刑法112条(不敬罪)は外国人にも適用される。SNS投稿・会話・行動で知らずに触れてしまうリスクと、在住者・旅行者が守るべき基本を解説する。
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タイで暮らす・旅行するにあたって、一つだけ「絶対に知っておくべき法律」がある。タイ刑法112条、通称「不敬罪(Lèse-majesté)」だ。王室を侮辱・批判・脅迫した者は3〜15年の禁固刑に処される可能性がある。この法律は外国人にも適用される。
タイ刑法112条とは何か
タイ刑法第112条は、「国王・王妃・推定相続人・摂政を、侮辱・誹謗・脅迫した者は3年以上15年以下の禁固刑に処す」と規定する。
重要なのは以下の点だ:
- 外国人にも適用される — タイ国内での行為が対象
- SNS投稿も対象になる — タイ国外からの投稿でも、タイ国内でアクセス可能なものは問題になった事例がある
- 誰でも告発できる — 検察だけでなく一般市民も告発可能
- 警察が告発を受けたら捜査義務がある — 告発があれば対処せざるを得ない制度設計
近年の執行状況を見ると、2020年以降のタイ国内の政治的な動きの中で、不敬罪の適用件数が増加したという報告がある(国際人権団体の観察)。
外国人が実際に巻き込まれた事例
外国人が不敬罪に問われた事例はある。詳細は報道でも確認できるが、共通するのは「酔った状態での発言」「SNSへの不用意な投稿」「政治的な議論の場での発言」というパターンだ。
日本人が問われた事例は報告を確認できていないが、欧米・オーストラリア・その他アジア諸国の外国人が逮捕・起訴された事例は記録されている。
「自分は観光客だから関係ない」は通用しない、というのが現実だ。
タイ在住者・旅行者が守るべき基本
SNSでの行動
絶対にやってはいけないこと:
- タイの王族に関する否定的・侮辱的なコメントをタイ国内から投稿すること
- 他の人がシェアした王室批判の投稿を「いいね」または「シェア」すること(これも問題になった事例がある)
- タイの政治的デモに関連したコンテンツに安易にコメントすること
実践的な対策:
- タイ滞在中は王室・政治に関するSNS投稿を控える
- 日本の友人から送られてきたコンテンツも慎重に確認してからリアクションする
日常会話での注意
タイ人との会話の中で、政治・王室・軍に関する話題が出ることがある。在住者として長く付き合っていると信頼関係が生まれ、タイ人の友人が自分の意見を話してくることも出てくる。
その場合でも、外国人側からは評価・批判・同意のコメントをしないのが安全だ。「聞く」「相槌を打つ」の姿勢で十分。
国歌・王室歌の場での振る舞い
タイでは映画上映前・一部の公共施設で国王を称える王室歌(「サンスデウィ」)が流れる。この際はその場にいる全員が起立する。外国人も同様に起立するのがマナーとして定着している。
映画館で「なぜ立つのかわからない」と思っても、その場では立ち上がることが求められる。座ったままでいると周囲のタイ人が困惑する。
政治情勢とのかかわり
タイの政治は複雑で、軍政・民主化運動・王室の関係は外国人が短期間で完全に把握するのは難しい。
在住者として心がけるべきは「深入りしない」という姿勢だ。タイの政治問題は、在住者が介入できるものでも、介入すべきものでもない。
2020〜2021年にかけてのバンコクでの大規模デモは、日本語メディアでも報道された。デモを「見物」するだけでも、状況によって危険が伴うことがある。政治的な集会に近づかないのが安全だ。
旅行者・出張者への補足
旅行者であれば、以下の2点だけ守れば通常は問題にならない:
- 王族関連の話題をネガティブに語らない・投稿しない
- 王室歌が流れたら起立する
これだけで「不敬罪に触れる」リスクはほぼゼロに近くなる。
出張者は特に「夜の席で政治の話になった」場面に注意が必要だ。お酒が入った状態での発言は記憶に残りにくく、同席者の誰かが問題と感じた場合にトラブルになることがある。
不敬罪の存在はタイの政治的な文脈と深く絡んでいる問題で、国際社会からは批判もある。ただしそれは外交・政策レベルの議論であり、在タイ外国人個人として「この法律があるタイに自分はいる」という事実を受け入れて行動するのが現実的な選択だ。
知らなかったでは通らない法律が存在する。それを知った上で、タイの生活・旅行を楽しむ——そのための情報として理解してほしい。