屋台が消えた日——バンコク屋台禁止政策と「食の民主主義」の行方
2017年に行われたバンコクの歩道屋台撤去政策は、世界中から批判を受けた。その背景、現在の状況、生き残った屋台文化と観光地化の矛盾を掘り下げます。
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2017年、バンコク都庁はヤワラート(チャイナタウン)を含む複数の通りから屋台を撤去する政策を打ち出した。
「歩道を歩行者に返す」「衛生管理の徹底」が理由とされた。CNNは「バンコクから屋台が消える」と報じ、世界の食文化ファンが反応した。
何が起きたのか
バンコクの歩道屋台は、アジア最大規模とも言われる街頭食文化の核だった。炒め物・グリル・スープが道路脇で作られ、プラスチックの椅子が並び、昼夜を問わず機能する食のインフラだった。
2017年の政策では、特定の通りや時間帯での屋台営業が禁止または制限された。撤去に反発した屋台主と抵抗が起き、一部では強制撤去が行われた。
現在の状況
それから数年が経ち、状況は「全面的な撤去」にはなっていない。
屋台は完全に消えておらず、エリアや時間帯での管理・黙認が続いている。ヤワラートの夜の屋台は今も健在で、観光客・地元民が混在する場になっている。
ただし以前と比べると、特定の人気エリアでは屋台の密度が下がっており、「屋台が自然にある風景」が「管理されたエリアに集まる」方向へ変化していることは確かだ。
「整備」は誰のためか
この政策への最も大きな批判は「誰のための整備か」という問いだった。
歩道を広くすることで得をするのは、大型商業施設・高級レストランの近隣に住む高所得者層や観光客だ。屋台がなくなることで、安く食べられる選択肢が失われるのは低〜中所得の労働者層だ。
「近代化・清潔・秩序」という名目の下で進む再開発が、誰の利益になっているかを問い直す視点は、バンコクに限らず多くの途上国都市の課題だ。
屋台が「観光資源」化する矛盾
皮肉なのは、バンコクが「食の都市」として世界に認知されているのは、まさにこの屋台文化によるところが大きいということだ。
CNNトラベルが毎年発表するストリートフードランキングでバンコクが上位に入るのも、安くて美味しい屋台が街にあるからだ。撤去の一方で「バンコクのストリートフード体験」を売り込む観光政策が同時進行しており、矛盾が生じている。
タイで屋台めしを食べる意味
今日もバンコクのどこかで、鉄鍋がガスコンロの上で音を立てている。パッタイ(焼きそば)が40〜60THB(推定)、カオマンガイ(茹で鶏ご飯)が50〜80THB(推定)で食べられる。
屋台で食べることは、単に安くて美味しいということを超えて、タイの街と最も近い距離で触れる行為だ。料理人と目が合って、笑顔を交わして、食べる——その経験の価値は、どんなレストランのコースでも代替できない。