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バンコクの屋台はなぜ消えかけているのか——露天商規制の現実と生存戦略

2017年のバンコク屋台撤去騒動から8年。タイ政府の露天商規制が屋台文化に与えた影響と、生き残っている業者の戦略を現地の実態から解説。

2026-04-13
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2017年、バンコク都が「清潔で秩序ある歩道」を目標に、主要道路沿いの露天商を大規模に撤去すると発表した。外国メディアは「屋台の終わり」として大きく報じた。タイ料理がユネスコ無形文化遺産への申請を進めるなか、その担い手が排除されるという皮肉に注目が集まった。

では今、屋台は本当に消えたのか。

撤去と「整理」の違い

正確に言うと、バンコクの屋台は「撤去された」わけではなく「整理された」。

都の方針は「歩道に無許可で出店している屋台を撤去し、許可された場所・施設内に集約する」というものだった。ヤワラートやシーロムのような観光エリアの主要歩道からは多くの屋台が消えたが、同じエリアでも一歩路地に入れば変わらず営業している屋台に出会える。

集約先として政府が整備したのがフードコートや屋根付きの「フードマーケット」だ。カリム・エリア(チャルンクルン通り周辺)や、各区が設けたマーケット施設内に移転した業者もいる。

屋台業者のコスト構造

路上出店が禁じられた後も継続している屋台は、いくつかの方法で場所を確保している。

最も多いのが「民有地の借用」だ。個人所有のガレージ前、寺院の敷地の一角、コンビニ脇のスペースを月1,000〜5,000THB(約4,300〜2万1,500円)で借りて出店する。場所代が発生しない以前より固定費が上がった形だ。

屋台の機動性を活かしてナイトマーケットに出店するパターンも増えた。週3〜4日の夜間営業で月20,000〜40,000THB(約8万6,000〜17万2,000円)の売上を目指す。観光客の流入が見込めるナイトマーケットは、平日の路上出店より収益性が高い場合がある。

「屋台飯」の価格変化

規制強化が進んだエリアでは、屋台料理の価格が上がった。2017年以前は30〜40THB(約129〜172円)だったパッタイが、今日のバンコク中心部では60〜80THB(約258〜344円)まで上がっているケースもある。

これは場所代の上昇が価格に転嫁されたこと、インフレ・食材費高騰が重なったことが理由だ。「安くて美味しいタイ料理」のコスト優位性は、かつてより薄れている。

郊外エリアや住宅地の路地に入れば、まだ40〜50THB(約172〜215円)台のガパオライスやカオマンガイを食べられる。「安い」タイ料理を求めるなら、都市中心部から離れる必要がある。

日本人が見落としがちな点

旅行者として「バンコクの屋台で食べた」という経験は今でもできる。ただ、その場所はガイドブックに載っているエリアよりも路地の奥か、ナイトマーケットであることが増えた。

在住する日本人の間では「昔ほど気軽に路上で食べられる場所が減った」という感想を聞く。バンコクの屋台文化は消えていないが、都市化と規制によって徐々に形を変えている最中だ。この変化がどこに落ち着くかは、まだ見えていない。

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