タイの王室への敬意は「建前」ではない——不敬罪と日常の王室観
タイには不敬罪(リース・マジェスティ)が存在し、王室を侮辱する言動は厳しく罰せられる。ただしそれ以上に、多くのタイ人の王室への尊敬は本物だ。この複雑な文化的文脈を解説します。
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タイでは映画館で予告編の前に王室讃歌が流れ、観客は全員起立する。
日本人には馴染みのない光景だが、タイ人はためらいなく立つ。習慣だから、ではない。それが「当たり前」として内面化されているからだ。
不敬罪(リース・マジェスティ)とは
タイには刑法第112条に基づく不敬罪があり、国王・王妃・皇太子・摂政を誹謗中傷した場合、最大15年の禁固刑が科される。
外国人もこの法律の対象であり、SNSへの投稿、会話での発言であっても適用される可能性がある。実際に外国人が不敬罪で逮捕されたケースは複数報告されている。
「冗談でも王室の批判はしない」——タイに住む上での最も基本的なルールだ。
尊敬は「強制」だけではない
不敬罪という強制的な側面があることは事実だが、多くのタイ人の王室への敬意は、法律に縛られているから、だけではない。
故プミポン国王(ラマ9世)は在位70年以上(1946年〜2016年)にわたり、農村開発、教育、水管理など多くの社会事業に取り組んだ君主として知られている。特に農村部では「農民の味方の王様」として深く愛されており、肖像写真が今も多くの家庭・店舗に飾られている。
この尊敬は制度の上に乗っているが、下からの感情として本物の部分がある。
外国人が注意すること
タイを旅行・居住する外国人にとって現実的なアドバイスとして:
- 王室について批判的な意見を公の場で述べない
- 王室の肖像や記念硬貨・紙幣を粗雑に扱わない(紙幣を踏む、など)
- タイ人の友人と話す場合も、政治・王室の話題では慎重に
- 映画館では讃歌の際に起立する
「観光客だから許される」という期待は持たない方が安全だ。
政治と王室の複雑な関係
タイでは近年、若い世代を中心に王室や軍政に対して批判的な動きが出ている。2020年〜2021年にはバンコクで大規模なデモが起き、王室改革を求める声が上がった。
ただしこれは繊細な政治状況の中の出来事であり、外国人がその動きを「支持」「批判」する立場で積極的に関わることは様々なリスクを伴う。
「タイの内政・王室問題には立ち入らない」という姿勢を保ちながら、その社会をよく観察する——それが賢い外国人の距離感だ。
王室の存在が街を作る
バンコクの街を歩くと、主要な場所に王室の写真・横断幕が掲げられている。誕生日・記念日の前後は特に多くなる。
これはプロパガンダというより、タイの「国民的感情の可視化」だと理解すると、街の見え方が変わる。日本の天皇制とは異なる形で、国家と国民を結ぶシンボルとして王室が機能している。