トゥクトゥクが生き残る理由——タクシーメーターとの価格競争で負け続けているのになぜ
運賃はタクシーより高く、快適性も劣るトゥクトゥク。それでもバンコクで生き残る経済的・構造的な理由を解説。
この記事の日本円換算は、1THB≒4.4円で計算しています(2026年4月時点)。
バンコクのトゥクトゥクに乗ったことのある人なら分かると思いますが、あれは交通手段として合理的ではありません。排気ガスを直撃で浴び、メータータクシーより高い交渉制運賃で、雨が降ったら半濡れになる。それなのに、なぜ2026年現在もバンコクにトゥクトゥクは走っているのか。
数字で見るトゥクトゥクの非合理性
短距離(1〜3km)の移動で比較してみます。
| 移動手段 | 運賃の目安 | 所要時間 | 快適性 |
|---|---|---|---|
| メータータクシー | 35〜60THB(154〜264円) | ほぼ同じ | エアコンあり |
| トゥクトゥク | 100〜200THB(440〜880円) | ほぼ同じ | 開放型、排気ガス |
| Grab(配車アプリ) | 50〜80THB(220〜352円) | ほぼ同じ | エアコンあり、確定運賃 |
価格では3倍近い差があります。それでも乗る人がいる。
トゥクトゥクの実際の顧客
バンコクのトゥクトゥクの主な顧客は、観光客です。特に「インスタ映え」「体験重視」の旅行者がターゲット。運転手も熟知していて、カオサン通り周辺ではトゥクトゥクのドライバーが観光客を連れて「お土産店」や「仕立て屋」に寄り道することで、店からキックバックを受け取るスキームが定着しています。
「近くのお寺に20THBで連れて行く」と誘い、途中で宝石店や布屋に立ち寄る。これはバンコクに10年以上住む日本人駐在員ならほぼ全員が知っている話で、在住者はトゥクトゥクにはほとんど乗りません。
それでも存在意義がある場面
ただし、トゥクトゥクが唯一合理的な選択肢になる場面があります。渋滞の激しい路地。バンコクの骨格を成す大通りから少し外れたソイ(路地)は、車が入れないほど狭い場所があります。こういった場所ではトゥクトゥクの小回りの利く車体が活きる。
また、夜の繁華街でタクシーが捕まらないピーク時間帯(金土の深夜1〜2時)には、トゥクトゥクが最後の手段になることもあります。
ドライバーの生計
1台のトゥクトゥクを所有または賃借しているドライバーの月収は、立地にもよりますが15,000〜30,000THB(6.6万〜13.2万円)程度とされます。観光客が集まるシーズン(11月〜2月のハイシーズン)と閑散期(4月〜6月)で収入は2〜3倍変動します。
Grabやタクシーアプリの台頭でローカル客を完全に失い、今やビジネスモデルは「観光業」として機能しています。トゥクトゥクはタイの交通機関というより、バンコクという観光地の「体験コンテンツ」として生き残っている——それが現実です。