タピオカの原料はタイの最大の輸出作物だ——世界の4分の1を出荷する見えない巨人
タイの輸出作物と言えば米が思い浮かぶが、キャッサバは世界輸出の約25%を占める。タピオカの粒としてしか知られていない作物が、タイの農業経済で果たしている役割を読み解く。
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タイの田舎をバスで走っていると、稲でもゴムでもない、背丈より高い低木が広がる畑を延々と見ることがある。葉が手のひらのように裂けていて、茎が細く、ところどころ収穫されて土が掘り返されている。
あれがキャッサバだ。そして、この作物はタイの農業輸出を語るときに米やゴムと並ぶ主役でありながら、日本ではほぼ「タピオカの原料」としてしか認識されていない。
クルンシー・リサーチの業界見通しによれば、タイは世界最大のキャッサバ輸出国で、世界市場の約25%を占める。2024年の生産量は2,860万トン、栽培面積は890万ライ(1ライは1,600平方メートル。890万ライは約1万4,240平方キロメートル)。2024年の輸出量は647万トン、輸出額は31.3億米ドルに達した。
「タピオカ」は完成品の名前ではない
まず整理しておきたいのは、この作物が何に化けているかだ。
2024年の輸出構成を量ベースで見ると、ネイティブスターチ(未加工のタピオカでん粉)が49.6%で320万トン、キャッサバチップが31.0%で200万トン、加工でん粉が16.4%で110万トン、ペレットが0.5%で29,187トン。
つまり輸出の半分は、加工前のでん粉として出ていく。タピオカドリンクの黒い粒になるのはこの一部で、残りは製紙、繊維、接着剤、医薬品の錠剤の結合剤、食品の増粘剤、そしてエタノールになる。
キャッサバチップという名前も紛らわしいが、これはスナックではない。乾燥させた根を砕いたもので、主に飼料とエタノール原料になる。中国が輸入するキャッサバチップの多くは、酒造用のアルコールに変わる。
ここが面白いところだ。この作物は消費者の目に触れる形でほとんど出てこない。紙にも、薬にも、酒にも入っているのに、原材料表示に「キャッサバ」と書かれることは稀だ。産業の中間財として存在している。
一つの顧客に売っている
だが、この産業には構造的な弱点がある。
タイのキャッサバ製品輸出のうち、約64%が中国向けだ。輸出先の第一位というだけでなく、購買力が極端に一極集中している状態だと分析されている。
一つの国が買い手の三分の二を占めると、価格交渉力はほぼ買い手側に移る。中国のエタノール需要が落ちれば、タイの農家の手取りが落ちる。中国がベトナムやラオスからの調達を増やせば、タイの畑の価格が下がる。
実際、価格は激しく動いている。2024年の生キャッサバの平均価格は1キロ2.33バーツ(約11.4円)で、前年から19.8%下落した。2025年1月から5月の平均は1キロ1.66バーツ(約8.1円)まで落ち、前年同期比で41.4%の下落だ。
一年で価格が4割落ちる。これは農家の生活が一年で4割削られるのに近い。米には政府の介入や国際市場の分散があるが、キャッサバは買い手が偏っているぶん、衝撃が直撃する。
2024年の輸出量そのものも前年から25.6%減、輸出額は15.6%減だった。生産量も6.5%減っている。
「痩せた土地でも育つ」という性質が農家を縛る
キャッサバがタイの東北部や中部の乾燥地帯で広く栽培されているのには、農学的な理由がある。
この作物は乾燥に強く、痩せた土壌でも育つ。米は水を大量に必要とし、灌漑がなければ育たない。ゴムは降雨量の多い南部に適地が偏る。キャッサバは、どちらも難しい土地で収穫できる。
この性質は農家にとって救いであり、同時に罠でもある。
救いである理由は明白だ。他の作物が育たない土地に、現金収入をもたらしてくれる。イサーン地方の多くの農家が、米の裏作や乾燥地での主作としてキャッサバを植えてきた。
罠である理由は、代替が効かないことだ。キャッサバが育つ土地は、多くの場合キャッサバしか育たない。価格が下がっても、別の作物に切り替える選択肢が薄い。米農家なら野菜に転換できるかもしれないが、灌漑のない乾燥地では転換先が限られる。
土地の条件が、価格下落への抵抗力を奪う。「その作物しか育たない土地」に住む人は、その作物の価格に人生を固定される。生物学的な適応力が、経済的な脆弱性に変換されている構造だ。
都市の生活と、見えない糸でつながっている
在住者の視点でこの話を読み直すと、いくつか接点が見えてくる。
まず、乾季の空気の質だ。キャッサバの収穫後に残渣を焼く慣行は、稲わらやサトウキビの野焼きと並んで、乾季の煙の原因の一つとされている。3月のバンコクやチェンマイの空気を吸っているとき、その一部は畑の後片付けから来ている。
次に、バンコクの労働市場だ。イサーンからバンコクへの労働移動は、農産物価格と連動する。畑の手取りが下がった年は、都市に出る人が増える。屋台やコンドの警備員や工事現場で働く人たちの流入量は、キャッサバや米の価格表と静かに連動している。
そして、食品の値段だ。加工でん粉は、タイの加工食品の増粘剤として広く使われている。コンビニの惣菜のとろみも、ここから来ていることが多い。
主役でないものが経済を支える
タイの輸出作物の話は、たいてい米から始まる。国のイメージとしても、「米の国」のほうが通りがいい。
だが世界市場でのシェアという指標で見ると、キャッサバのほうが圧倒的に強い。世界の4分の1を出している作物と、複数の強力な競合国がいる市場で戦っている作物。どちらが国の交渉力を支えているかは、単純ではない。
キャッサバが目立たないのは、消費者に直接届かないからだ。産業の中間材は、シェアが大きくても物語にならない。半導体が話題になるまでに数十年かかったのと似ている。
次にタピオカ入りの飲み物を飲むとき、あるいはバスの窓から手のひら型の葉が並ぶ畑を見るとき、その向こうに中国の酒造工場と紙工場が控えていると思うと、風景の意味が少し変わる。そういう読み方もできる。