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タイで中古車の値段が落ちない理由——車が資産として扱われる市場

タイでは中古車の価値が下がりにくく、車が消耗品ではなく資産に近い扱いを受ける。関税と需要が作った価格構造を在住者の視点で読む。

2026-09-23
中古車自動車資産経済タイ

この記事の日本円換算は、1THB≒4.9円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(THB)の金額を基準にしてください。

日本で数年落ちの車を売ったときの査定額に落胆した経験がある人は多いと思う。買ったときの価格から、驚くほど下がる。

タイでは、この落ち方が違う。年式を重ねた車が、日本の感覚からすると高い値段で流通している。車の価値の減り方が、国によってこれほど違うのはなぜか。

新車が高いと、中古が高くなる

出発点は新車価格だ。

タイでは自動車に関する税制の構造上、車種によっては新車価格が高くなる。輸入車には関税が加わり、国内生産車にも各種の税がかかる。所得水準に対して、車は相対的に高価な買い物になる。

新車が高ければ、その代替である中古車の価値も高く保たれる。中古車の価格は、同等の新車を買う場合との比較で決まるからだ。新車が安い市場では、中古を買う理由が薄れて価格が落ちる。逆もまた然り。

日本の中古車が安いのは、車が壊れにくく、車検制度があり、新車も比較的手に入りやすく、そして買い替えのサイクルを回す文化があるからだ。供給が多く、代替が容易なら価格は落ちる。

「価値が落ちない」ことの意味

中古車の価値が下がりにくいということは、車を所有するコストが変わるということだ。

車を持つコストは、購入価格そのものではなく、買った価格と売った価格の差に、維持費を足したものだ。三年乗って半分の価値が残るのと、八割の価値が残るのとでは、実質的な負担がまったく違う。

だからタイでは、車が「使って減っていく消耗品」というより、「持っている間だけ価値を預けている資産」に近い感覚で扱われる場面がある。

この違いは行動にも表れる。車を丁寧に扱う。傷をつけない。整備をきちんとする。修理して長く乗る。売るときの価値が残るなら、手入れは投資になる。

日本車が強い市場

タイの道路を走る車を眺めると、日本のメーカーの車が非常に多いことに気づく。

これには歴史的な経緯がある。日本の自動車メーカーは早い段階からタイに生産拠点を置き、部品産業を含めた供給網を作ってきた。タイは東南アジアにおける自動車生産の拠点の一つになっている。

生産拠点があるということは、部品が手に入り、整備できる工場があり、修理のノウハウが蓄積されているということだ。これが中古市場での価値を支える。

修理できない車は、故障した時点で価値がほぼゼロになる。逆に、どこでも直せる車は、古くなっても価値が残る。整備網の存在が、そのまま資産価値の裏づけになっている。

在住者が車を買うかどうか

日本人の在住者にとって、車を持つかどうかは生活圏で決まる。

バンコクの中心部で、BTSやMRTの沿線に住み、行動範囲が都心に収まっているなら、車の必要性は低い。渋滞が深刻で、駐車場も高く、配車アプリで移動できる。維持費と手間に見合わないという判断は十分に成り立つ。

一方、郊外や地方に住む場合、子どもの送迎がある場合、頻繁に遠出する場合は、車があるかどうかで生活の自由度がまるで違う。

購入するか、リースするか、長期レンタルにするか。タイには複数の選択肢がある。滞在期間が限られているなら、購入して売却する手間より、レンタルやリースのほうが総コストで有利になることもある。試算してみる価値はある。

買うときに確認すべきこと

中古車を買う場合、確認すべき点がいくつかある。

車両の登録書類の状態。名義変更の手続きが問題なくできるか。事故歴や冠水歴の有無。バンコクは雨季に冠水する街なので、水に浸かった車が市場に出回る可能性は無視できない。シートの下の金具に錆が出ていないか、車内に妙な消臭剤の匂いが残っていないか——中古車を見るときに真っ先に確認したいのはここだ。

外国人が車を購入し登録する場合の必要書類は、ビザの種類や居住の証明の状況によって変わりうる。手続きの詳細は販売店と当局で確認するのが確実だ。

強制保険と任意保険の加入も、購入とセットで考える必要がある。

タイの自動車・バイク保険は二層構造になっている。法律で加入が義務づけられている強制保険は、人身に関する最低限の補償を目的としていて、上限額が定められており、車両の損害は対象外だ。任意保険がそこから上を埋める。タイの任意保険はいくつかの等級に分かれていて、上位の等級ほど補償が広く、保険料も高い。どの等級に入っているかで、事故後の展開がまるで変わる。

日本と最も違うのが、事故が起きたときの動き方だ。当事者がそれぞれ自分の保険会社に連絡すると、調査担当者がバイクで現場に駆けつける。彼らが写真を撮り、相手側の担当者と過失割合を協議する。警察が来る前に保険会社同士で話がまとまることもある。つまり事故処理の主導権が、かなりの部分で保険会社にある。

だから事故直後は、負傷者の救護と安全確保を最優先にしたうえで、車両を動かさずに保険会社へ連絡する。日本の感覚では「早く道をあけなければ」と焦る場面だが、現場の状態が過失割合の判断材料になるため、勝手に動かすのは不利に働きうる。

やりとりはタイ語になる。日本語や英語の対応窓口を持つ保険会社を選んでおくと、この局面で差が出る。契約前に対応言語を確認しておく価値は十分にある。制度や補償内容は改定されうるので、加入時と更新時に最新の内容を確認してほしい。

価格が語るもの

中古車の価格表を眺めるのは、その国の経済を読む方法の一つだ。

何が高くて、何が安いか。どの車種の価値が保たれ、どの車種が落ちるか。そこには税制、産業構造、整備網、そして人々が車に何を求めているかが、全部数字になって現れている。

日本で当たり前だった「車はすぐ値落ちするもの」という前提が、実は日本という特殊な条件の産物だったと気づくのは、こういう場面だ。

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