台湾の住所が「巷」と「弄」で枝分かれする理由——番地に隠れた都市の年輪
台湾の住所は段・巷・弄・號と細かく枝分かれする。一見わかりにくいこの体系は、実は都市の成長を記録した年輪のようなもの。住所の読み方から街の歴史が見える。
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台湾で初めて荷物を受け取ろうとした人の多くが、住所欄で固まる。「○○路100巷5弄3號」。路はわかる。だが巷とは、弄とは何か。
この階層構造は不便に見えて、実は都市が育った順番を正確に記録している。住所を読めるようになると、その地区がいつ、どう広がったのかが透けて見える。
路・街から枝が伸びていく
基本は大通りである「路(ルー)」または「街(ジエ)」。ここに面した建物には號(番号)が振られる。
問題はその奥だ。大通りから一本入った路地が「巷(シャン)」。さらにその巷から枝分かれした細い道が「弄(ロン)」。つまり路→巷→弄と、太い血管から毛細血管へ向かうように番号が枝分かれしていく。
「中山路50巷」は、中山路の50番地あたりから奥に入る路地、という意味になる。番号は通りの番地と連動しているから、巷の番号が大きいほど通りの奥に入口がある。
なぜこんな構造になったのか
碁盤の目に整然と区画された都市なら、番地は単純な連番で済む。だが台湾の市街地は、もともとあった集落や農地のあぜ道の上に、後から建物が建て込んでいった場所が多い。
大通りを引いた後、その裏の不規則な土地に住宅が増える。新しくできた路地に名前を一つずつ付けていたらきりがない。そこで「○○路の○番地から入る路地」という相対的な住所体系が採用された。
つまり巷・弄が多い地区ほど、計画的に区画される前から人が住み、後から密に建て込んでいった歴史を持つ。住所の枝の深さは、都市の年輪のようなものだ。
同じ番号が近くに複数ある罠
この体系の弱点は、配達側にとっての曖昧さだ。「100巷の3號」と「100弄の3號」は別の場所なのに、口頭では混同しやすい。地図アプリが普及する前は、配達員の経験がものを言った。
在住者がやりがちな失敗が、巷と弄を一つ飛ばして書くことだ。書類に「○○路100巷3號」とだけ書くと、本来は弄まで指定すべき住所が届かない。一文字の脱落が、荷物の行方を変える。
番地に偶数・奇数の規則がある
多くの通りでは、道の片側が奇数號、反対側が偶数號になっている。これは日本の街区方式とは違い、通り沿いに連番で振る欧米型に近い。
だから「奇数號を探しているのに偶数しか見当たらない」ときは、たいてい道の反対側を歩いている。慣れると、番号の偶奇だけでどちら側に渡ればいいか判断できる。
住所を読めると街が立体的になる
引っ越し先を探すとき、住所に弄まで含まれていれば「大通りからかなり奥まった静かな場所」だと推測できる。逆に巷もなく路の號だけなら、幹線道路に面していて便利だが騒がしいかもしれない。
不動産情報の住所を見るだけで、騒音や日当たりの当たりがつく。住所は単なる宛先ではなく、その場所が都市のどこに位置するかを符号化した地図でもある。そう読むと、わかりにくかった巷と弄が、街を立体的に見せてくれる道具に変わる。