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台湾野球は「国家承認」の代替手段である

台湾がWBCやオリンピックで見せる異常な熱量は、スポーツ好きだけでは説明できない。国際社会で正式に「国」として認められない台湾にとって、野球の国際大会は数少ない国旗を掲げられる場だ。

2026-05-18
台湾野球スポーツアイデンティティ国際関係

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2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で台湾が試合をするとき、台北の街は異常な状態になった。居酒屋、カフェ、コンビニの前——あらゆるスクリーンの前に人が集まり、得点が入るたびに街全体が揺れた。

視聴率は70%を超えたと報じられた。日本のサッカーW杯に匹敵する数字だ。だがこの熱量を「野球好きの国だから」と片付けるのは、構造の半分しか見ていない。

「チャイニーズ・タイペイ」問題

台湾がオリンピックやWBCに出場するとき、使われる名称は「チャイニーズ・タイペイ(中華台北)」だ。国旗は使えず、梅花のエンブレムを代用する。国歌も流れない。代わりに「国旗歌」という別の曲が使われる。

国連に加盟できず、多くの国際機関から排除されている台湾にとって、スポーツの国際大会は「台湾」という存在が世界に認識される数少ない公式の場だ。「チャイニーズ・タイペイ」という名前であっても。

野球の持つ歴史的文脈

台湾の野球は日本統治時代(1895〜1945年)に伝わった。1931年、嘉義農林学校(嘉農)のチームが甲子園に出場し準優勝。このチームは日本人・台湾人(漢人)・原住民の混成チームで、映画『KANO』(2014年)の題材にもなった。

戦後、野球は台湾のナショナリズムと結びついた。1960〜70年代の少年野球チーム(紅葉少棒、金龍少棒)が世界大会で勝ち進んだとき、台湾は国連を追放された直後の時期だった。国際社会から締め出された国が、野球で「まだここにいる」と示した。

応援の構造——個人ではなく「我們(私たち)」

台湾の野球応援は、選手個人への声援よりも「台湾」というチーム全体への帰属意識が前面に出る。球場で「台灣加油!(台湾がんばれ)」のコールが起きるとき、それはスポーツの応援であると同時に、国家としての自己主張でもある。

日本人が甲子園で母校を応援する感覚に近いが、スケールが「国」に拡大されている。しかも、その「国」が国際社会で正式に認められていないという文脈が加わる。

プロ野球リーグ(CPBL)の現在

台湾のプロ野球リーグ(中華職業棒球大聯盟、CPBL)は現在6チーム。観客動員数は年間約250万人(2023年)で、人口比で見ると日本のNPBに迫る水準だ。

球場の雰囲気はNPBよりMLBに近い。チアリーダーが各チームに常駐し、SNSでの個人フォロワー数が数十万人に達するチアリーダーもいる。エンターテインメントとしての野球が、国家意識の装置としての野球と共存している。

台湾にとって野球は娯楽であり、歴史の記憶装置であり、外交の代替手段でもある。バットを振ることが、国の存在証明になる場所がある。

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