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食・農業

タピオカミルクティーは台湾から来た。でも今、台湾に残っているものは何か

1987年台中の喫茶店で生まれたタピオカミルクティーは、世界市場26億ドルの産業になった。発明の国が世界展開の恩恵を受けているかというと、話はそう単純ではない。

2026-04-08
台湾タピオカ食文化グローバル化ビジネス

タピオカミルクティーが世界で売れるたびに、台湾にお金が落ちているかというと、それは必ずしも正しくない。

1987年、台中の喫茶店「春水堂」の従業員・林秀慧が、お茶にタピオカを入れてみた。それが発端だとされている(同時期に台南の翰林茶館も「自分が先」と主張し、10年の裁判の末に「どちらが元祖かは論じる必要がない」という判決が出た)。その38年後、世界のバブルティー市場の規模は2024年時点で26億3000万ドル(約3860億円)に達し、2032年には47億ドルを超えると予測されている。

問題は、この成長の果実がどこに集まっているかだ。

「台湾発」が意味しなくなったもの

ゴンチャ(貢茶)は2006年に台湾・高雄で生まれたブランドで、現在は世界約25カ国・2000店舗以上を展開している。日本には2015年に上陸し、2024年末時点で176店舗。ただ、ゴンチャを運営する親会社は現在、韓国の投資ファンドが筆頭株主だ。

タイガーシュガーはインスタグラム映えする「黒糖バブルティー」で2019年ごろに世界的なブームを起こした。台湾発のブランドだが、フランチャイズの主戦場はアジア全域と北米で、台湾の農家でも台湾の工場でもなく、現地のフランチャイジーが利益を得る構造になっている。

生物学に「ニッチ構築」という概念がある。ある生物が環境を変えることで、その環境に最も適応しやすい別の生物に場所を明け渡してしまう現象のことだ。タピオカミルクティーの場合、台湾は文化的なニッチを構築したが、そのニッチを埋めているのは必ずしも台湾の企業ではない。

タピオカ原料と「台湾製」の現実

タピオカ(キャッサバでんぷんから作るパール)の主要産地はタイとブラジルだ。台湾はキャッサバをほとんど生産しない。つまり、ドリンクの物理的な中心にある「粒」は、台湾産ではない。

台湾から輸出されているのは主にドリンクベースの原料(粉末ミルクティー、シロップ、フレーバー)と機械類だ。2018年の段階でこれらの輸出額は約35億円だった。世界市場3860億円の1%以下の水準にあることになる。

これをどう解釈するかは難しい。「台湾が生み出した文化がロイヤルティを取れていない」と嘆くこともできるし、「文化的影響力は数字では計れない」とも言える。どちらも正しい。

台湾で飲むタピオカミルクティー

台湾を旅したことがある人なら気づくはずだが、台湾のドリンクスタンドは日本や韓国のそれとは別物だ。

価格はNT$50〜80(約230〜370円)が相場で、注文時に砂糖と氷の量を「0%・25%・50%・75%・100%」の5段階から選ぶ。自分でカスタマイズするのが当たり前の文化で、「スタンダードな1杯」という概念がそもそも薄い。台湾の街角に500円以上の「プレミアムバブルティー」ブランドが増えた後も、地元住民はNT$60のスタンドに通い続けている。

この感覚は、日本で「本場のラーメン」が地方の町中華より高価格で売られていることと少し似ている。発祥地では「普通の飲み物」が、輸出先でプレミアム化される現象だ。

春水堂が残したもの

発祥店とされる春水堂は現在、台中を中心に複数の店舗を展開している。メニューはタピオカミルクティーだけでなく、麺料理や軽食も揃い、落ち着いた茶芸館の雰囲気を維持している。日本にも複数店舗がある。

面白いのは、春水堂が「タピオカミルクティーを広める」路線をそれほど追わなかったことだ。発祥の話は積極的に語るが、フランチャイズを世界中に乱造するより、茶文化を伝えるポジションにとどまっている。

一方でゴンチャやタイガーシュガーのような後続ブランドが規模の経済で世界を席巻した。発明者が文化を守り、後追いが市場を取る——これはビジネスの歴史でよくあるパターンだが、それが食文化の領域で起きると、何かが失われるように見えて、何が失われたのかを正確に言葉にするのは難しい。

台湾に残ったもの

「台湾産のタピオカミルクティー」という概念は、実は台湾の人々にとってそれほど重要ではないかもしれない。

台湾には400社以上のドリンクスタンドブランドが存在するとされ、その多くが台湾内に留まる中小チェーンだ。「五十嵐」「COMEBUY」「茶湯會」といったブランドは台湾での認知度が高いが、海外展開には積極的でない。地元向けにひたすら美味しいものを作り続けることに集中している。

タピオカミルクティーは、台湾を離れることで世界産業になった。台湾に留まったものは、世界産業にはならなかったが、発祥の土地として文化の厚みを持ち続けている。

どちらが「残ったもの」でどちらが「失ったもの」なのかは、何を豊かさと呼ぶかによって変わる。


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