補習班という名の第二の学校——台湾の塾文化と受験戦争の構造
台湾の補習班(ブーシーバン)文化と受験競争の実態を解説。塾の種類・費用・通塾率から、台湾の教育制度の特徴、日本との違い、在住日本人家庭が知っておくべきことまで。
この記事の日本円換算は、1TWD≒4.8円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(TWD)の金額を基準にしてください。
台北の夜9時、南陽街(ナンヤンジエ)を歩くと、ビルの上階に煌々と灯りがついている。中学生や高校生がカバンを背負って階段を降りてくる。学校が終わった後の「もうひとつの学校」——補習班(ブーシーバン)だ。
台湾の補習班は、日本の塾と似ているようで、規模と社会的な位置づけがかなり違います。
補習班の規模
台湾教育部の統計によると、全国の補習班の登録数は約18,000件(2024年時点)。台北市内だけで数千件が集中しています。南陽街周辺は「補習班街」として知られ、ビルの1階から5階まで全フロアが異なる補習班——という建物も珍しくありません。
小学生の通塾率は約50〜60%、中学生になると70%以上、高校生は80%近くに達するとされています(台湾児童福利聯盟の調査)。
何を学ぶのか
| 段階 | 主な科目 | 費用目安(月額) |
|---|---|---|
| 小学生 | 英語、数学、作文 | TWD 3,000〜8,000(約14,400〜38,400円) |
| 中学生 | 国文、英語、数学、理科 | TWD 5,000〜15,000(約24,000〜72,000円) |
| 高校生 | 大学入試科目(学測対策) | TWD 8,000〜20,000(約38,400〜96,000円) |
小学校低学年のうちは「安親班(アンチンバン)」と呼ばれる学童保育型の補習班が主流です。学校が終わった午後、親が迎えに来るまでの間に宿題を済ませ、軽食を食べ、追加の勉強をする。共働き家庭にとっては学童保育と塾を兼ねた存在です。
「星級老師」と名物講師
台湾の補習班文化の特徴は、カリスマ講師の存在感です。大手の補習班は人気講師の名前で生徒を集めます。広告看板に講師の顔写真が大きく掲載され、テレビCMに出演する講師もいます。
合格実績が講師の「戦績」として扱われ、「去年、この先生のクラスから台大(台湾大学)に○人合格」という数字が最大のセールスポイントになります。
日本の受験戦争との違い
台湾の大学入試制度「学科能力測験(学測)」は、日本の共通テストに近い仕組みですが、その後の個人申請や指定科目考試の組み合わせで進学先が決まります。入試制度は近年頻繁に改革されており、「今年のルールと去年のルールが違う」ということが起きやすい。この変化の速さが、最新の入試情報を持つ補習班の需要を生んでいます。
日本と比較して目立つのは、英語学習の開始年齢の早さです。小学校1年生から英語の授業がある台湾では、幼稚園の段階で英語補習班に通わせる家庭も多い。
在住日本人家庭の選択
台湾在住の日本人家庭が子どもの教育を考える場合、大きく3つの選択肢があります。
- 日本人学校(台北・高雄)——日本のカリキュラムで学べるが、中国語環境は限定的
- 現地校(公立・私立)——中国語で全科目を学ぶ。補習班に通うことが前提になりやすい
- インターナショナルスクール——英語ベース。年間学費TWD 400,000〜800,000(約192万〜384万円)
現地校に通う場合、クラスメイトのほとんどが補習班に通っているため、「うちの子だけ通わせないわけにいかない」という同調圧力が生まれやすい。これは日本の塾事情と似た構造です。
教育費が家計に占める割合
台湾の家庭の教育費支出は平均世帯収入の15〜20%を占めるとされています。共働きが一般的な台湾では、補習班の費用は「必要経費」として家計に組み込まれていることが多い。
補習班の存在は、台湾社会の「学歴が生涯収入に与える影響が大きい」という構造的な信念と切り離せません。その信念が正しいかどうかは別として、制度としてすでに定着している以上、台湾で子育てをするなら知っておくべき現実です。