台湾の脱原発と電力問題——製造業大国が電力をどう調達するか
2025年に原発を全停止した台湾。電力不足の懸念と製造業への影響、再生可能エネルギー政策の現状を整理します。
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台湾は2025年5月、最後の原発(第三核電廠・第2号機)の運転を終了し、「非核家園(核なき故郷)」政策を実現した。これは2011年の東日本大震災後に高まった反原発世論と、民進党政権のエネルギー政策が結びついた結果だ。しかし脱原発は一つの課題の終わりではなく、新たな課題の始まりでもある。
原発停止後の電力構成
台湾電力公司(台電)のデータによると、2024年度の電源構成は概ね以下の通りだ。
| 電源 | 比率(概算) |
|---|---|
| 天然ガス(LNG) | 約43% |
| 石炭火力 | 約33% |
| 再生可能エネルギー | 約15% |
| 原子力 | 残り(段階停止中) |
| その他(揚水・重油等) | 残り |
化石燃料(ガス・石炭)が約75%を占める構成になっており、電力の安定供給と温室効果ガス削減という2つの課題が同時に突きつけられている。
TSMC問題——製造業の電力消費
台湾の電力問題を語るとき避けられないのがTSMCの存在だ。TSMC1社で台湾全体の電力消費の約8%を占めるとされる(2023年時点)。先端半導体の製造は非常に電力集約的であり、TSMCが2nm・1.4nm世代の生産を拡大するにつれて電力需要は増え続ける。
台湾はもともと電力輸入ができない「電力孤立系統」だ。海底ケーブルで他国から融通を受けることができないため、国内で生産と需要を自己完結させる必要がある。停電リスクは製造業の競争力に直結する問題だ。
夏季の電力ひっ迫
原発停止後、特に課題となっているのが夏季(6〜9月)のピーク需要への対応だ。冷房需要が急増する時期に電力予備率が下がり、「橘燈(オレンジ警報)」や「紅燈(レッド警報)」が発令されることがある。これは電力不足が迫っているサインで、産業界に節電協力が要請される。
台湾在住者にとっては、夏場の大規模停電リスクは一応念頭に置いておく必要がある。UPS(無停電電源装置)や自家発電設備を持つオフィス・工場が増えているのも、この背景がある。
再生可能エネルギーの拡大
台湾政府の目標は2025年に再エネ比率20%、2030年に30%だ。太陽光発電の急速な拡大と、特に注目されているのが洋上風力発電だ。台湾海峡は世界でも有数の強風地帯で、ヨーロッパの洋上風力企業(Ørsted、CIPなど)が参入している。
台湾北西部・中西部沖に整備される洋上風力パークは、2026年以降の稼働が相次いでおり、電力構成の再エネ比率を押し上げていく見込みだ。
生活への影響は?
一般市民・在住外国人にとっての最大の懸念は「停電」だ。現実的には、台北市内での計画停電や長時間の大規模停電はそれほど頻繁ではないが、夏のピーク時には数時間の局所的停電が起きることはある。
電気代は2022年以降に値上がりが続いており、家庭用電力料金は以前より高くなっている。それでも日本と比べれば安い水準にはあるが、「電力が安くて安定」というかつての台湾のイメージは変わりつつある。