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ミルクティー同盟——SNSから生まれた台湾・タイ・香港の連帯と、その限界

2020年にSNS上で生まれた「ミルクティー同盟」の背景と経緯を解説。台湾・タイ・香港の市民がなぜミルクティーで繋がったのか、現在の状況、台湾の国際的な立場への影響まで。

2026-05-07
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2020年4月、Twitterで中国人ネットユーザーとタイ人ユーザーの間で論争が起きました。きっかけはタイの俳優の投稿でしたが、そこに台湾人と香港人が参戦し、「ミルクティーを飲む文化圏 vs 中国」という構図が生まれた。台湾のタピオカミルクティー、タイのタイティー、香港の鴛鴦茶(ユンヨンチャ)——「自分たちの国にはおいしいミルクティーがある」という、半分ジョークで半分本気の連帯が「ミルクティー同盟(Milk Tea Alliance)」と名付けられました。

なぜ「同盟」が成立したのか

この3つの地域に共通しているのは、「中国の影響力拡大に対する警戒感」です。

香港は2019年の逃亡犯条例改正案をめぐるデモから国家安全維持法の施行へ。台湾は台湾海峡の軍事的緊張と一国二制度の拒否。タイは2020年の民主化運動と中国資本の増加。文脈は異なりますが、「自由と自治を脅かすものへの抵抗」という共通項がSNS上で可視化されたのです。

重要なのは、これが政府間の同盟ではなく市民レベルの連帯だった点です。外交的な公式声明ではなく、ミームと絵文字とハッシュタグで広がった。

台湾にとっての意味

台湾は国連に加盟しておらず、多くの国と正式な国交がありません。この外交的な孤立が、市民レベルの国際的連帯を台湾人が重視する背景にあります。

ミルクティー同盟は台湾にとって「政府が動けない場所で市民がつながる」経験でした。タイの民主化運動家と台湾の活動家がオンラインで情報交換する、香港から台湾に移住した人々がコミュニティを形成する——こうした動きは外交レベルでは起きにくいことです。

現在の状況と限界

2026年現在、ミルクティー同盟という言葉自体は以前ほど頻繁には使われなくなっています。理由はいくつかあります。

香港では国安法の施行後、市民運動の空間が大幅に縮小した。タイでは民主化運動の焦点が国内問題に移った。ミャンマーが2021年のクーデター後に同盟の文脈で言及されるようになりましたが、各国の事情が異なりすぎて「共通の敵に対する連帯」という単純な構図では収まりきらなくなった。

また、SNS上の連帯は盛り上がりやすいが、制度化されにくいという構造的な限界もあります。ハッシュタグは外交条約にはならない。

台湾在住者から見た風景

台湾に住んでいると、この同盟の残響は日常の中に見えます。タイ料理店に台湾のタピオカティーが置いてある、香港から移住した人が開いた茶餐廳がある、SNSで東南アジアの民主化ニュースに台湾人が反応する。

台湾の国際的な立場は、公式な外交チャンネルだけでは見えません。市民の感情と行動のレベルで起きているつながりを観察すると、この島の外交的現実がもう少し立体的に見えてきます。

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