Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
食・グルメ

鳳梨酥がなぜ台湾の顔になったのか——一個の菓子に詰まった外交と農業政策

土産菓子の定番・鳳梨酥(パイナップルケーキ)。実は中国の禁輸措置と農業の苦境が生んだ「政治的な菓子」でもある。一個の背後にある構造を読み解く。

2026-08-01
鳳梨酥パイナップル農業土産経済

この記事の日本円換算は、1TWD≒5.1円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。

台北の土産物店に並ぶ黄色い箱を見て、多くの人は「観光客向けの甘いお菓子」だと思う。だが鳳梨酥(フォンリースー、パイナップルケーキ)は、見方を変えると農産物の在庫処理から生まれた工業製品であり、ときに地政学の道具にもなる。

一個30〜60TWD(約153〜306円)の菓子の背後には、想像より重い物語が積み重なっている。

そもそも中身はパイナップルではないことが多い

昔ながらの鳳梨酥の餡は、実はパイナップルだけで作られていないものが多かった。安価な冬瓜(とうがん)に少量のパイナップルを混ぜて、繊維と甘みを調整するのが定番の製法だった。

冬瓜は安く、水分が多く、煮詰めれば餡になる。パイナップルは香りづけと「名前」のために加える。つまり鳳梨酥は、原価を抑えながら高級感を出すための、よくできた食品設計でもある。

近年は「土鳳梨酥(果肉100%)」を売りにする店が増えた。酸味の強い在来種パイナップルを丸ごと使い、繊維の食感を残す。冬瓜混合との違いを「本物かどうか」の物語として売っている。

余った農産物を菓子に変える発想

台湾は果物の生産大国だ。亜熱帯から熱帯にかけての気候で、年間を通じて何かしらの果物が穫れる。しかし生鮮品は腐る。豊作の年ほど価格が暴落し、農家が困る。

ここで加工品が効いてくる。生のパイナップルを菓子の餡に変えれば、保存もきき、付加価値も上がる。鳳梨酥が国民的土産になった背景には、果物余りという農業の構造問題を「お菓子」で吸収するという、地味だが合理的な仕組みがある。

パイナップルが外交カードになった日

2021年、台湾産パイナップルの主要輸出先だった中国が、害虫を理由に輸入を停止した。台湾側はこれを政治的な圧力と受け止めた。

このとき台湾国内で起きたのが、消費キャンペーンだ。「パイナップルを食べて農家を支えよう」という運動が広がり、日本などへの輸出も後押しされた。一個の果物が、国の結束を測る道具になった瞬間だった。

鳳梨酥はそのとき、ただの土産ではなく「自国の農業を守る象徴」として語られた。菓子に政治が乗るというのは、外から見ると不思議な現象だ。

「鳳梨」という言葉の縁起

台湾語で鳳梨(パイナップル)は「旺来(オンライ)」、つまり「運が来る」に音が通じる。商売繁盛や開店祝いにパイナップルの置物が飾られるのはこのためだ。

縁起物としての地位が、菓子の人気をさらに押し上げた。贈り物として渡せば「幸運をおすそ分けする」意味になる。お盆の時期に日本へ一時帰国する在住者が、職場や親戚への土産に鳳梨酥を選ぶのは、味だけでなくこの語呂の良さも効いている。

在住者の目で見ると

スーパーで売られている廉価な鳳梨酥と、専門店の高価なものは、同じ名前でも別の食べ物に近い。冬瓜混合か果肉100%か、バターの質はどうか。値段の差は、農産物の物語にどれだけ対価を払うかの差でもある。

土産菓子を一つ選ぶとき、その黄色い箱が農業政策と外交の縮図でもあると知っていると、台湾という場所の見え方が少し変わる。一個の菓子から、果物が余る国の事情までたどれる。そういう読み方もできる。

コメント

読み込み中...