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台湾のGDPの22%が半導体。その集中を、台湾の人々はどう生きているか

世界の先端チップの90%超をTSMCが生産し、台湾の輸出の38%が半導体。これほどの産業集中を抱えた社会の日常はどんな見え方をするのか。

2026-04-08
台湾半導体TSMC地政学経済

地震が起きるたびに、世界の半導体価格が動く。台湾はそういう国だ。

2024年4月、台湾東部でM7.4の地震が発生した。翌日の世界のニュースでは「TSMC工場への影響」が建物の倒壊と同列で報道された。台湾の工場が止まるかどうかが、世界のスマートフォンやAIサーバーの生産スケジュールに直結するからだ。

2024年時点のデータを見ると、台湾の半導体産業の規模は対GDPで22.1%に達する。輸出総額に占める半導体の比率は38.5%。10ナノメートル未満の先端プロセスでは、世界市場の90%以上をTSMC単独が担っている。これは、一つの企業・一つの地域への集中としては、産業史上おそらく類例がない。

石油のサウジアラビア、金融のシンガポール、観光のモナコ——どれも産業集中の例として挙げられるが、半導体における台湾の支配は程度が違う。代替が効かない技術的バリアと地理的集中が同時に成立しているからだ。

なぜここまで集中したのか

TSMCが1987年に設立されたとき、創業者の張忠謀(モリス・チャン)がやったことは「設計と製造の分離」だ。それまで半導体は、設計も製造も同じ会社がやっていた(IDM:Integrated Device Manufacturerモデル)。TSMCは製造専業(ファウンドリ)という業態を作り、設計だけをやる会社(ファブレス)の仕事を引き受けた。

この分業が、世界中のテクノロジー企業が「設計に集中してTSMCに製造を委託する」モデルを可能にした。Apple、NVIDIA、AMD、Qualcomm——いずれも自社工場を持たず、TSMCに製造を依存している。

集中が生まれたのは地政学的な理由ではなく、産業構造の設計からだ。ただし、その構造が台湾という島に存在することが、地政学的な意味を後から与えた。

「シリコンシールド」という逆説

台湾では「シリコンシールド」という概念が語られる。半導体産業がある限り、世界は台湾を守ることに利害を持つ——という議論だ。

実際、2020年代に入って米国・日本・欧州がこぞってTSMCの工場誘致に動いた。熊本(2024年稼働)、アリゾナ(2024〜2025年稼働予定)、ドレスデン(2027年稼働予定)と、台湾の外に工場が増えている。誘致費用は各国政府が補助金で負担している。

これをどう読むかで意見が割れる。「台湾の技術力が世界に認められた証拠」とも言えるし、「生産拠点の分散は台湾の優位が薄まる過程の始まり」とも言える。台湾内部でも、楽観と懸念の両方の声がある。

日常の中の産業集中

台湾に住んでいると、この集中を直接感じる場面がある。

新竹サイエンスパーク(科学工業園区)は台湾北部に位置し、TSMC・UMC・他の半導体関連企業が集積している。周辺の家賃は台北市内より高い地区もあり、TSMCの本社がある竹北市のマンション価格は2020年代に入ってから急騰した。エンジニアの給与水準がその地域の不動産市場を動かしている。

電力の問題も現実的だ。TSMCが工場を1棟増設するたびに、台湾中部・北部の電力需要が数%上昇する。2022年には台湾で計画停電が発生し、「半導体産業の電力消費が一般市民の生活を圧迫している」という議論が起きた。

産業の集中は、地図の上では見えない。でも電力網と不動産価格は、どこに重心があるかを正直に表す。

TSMC以外で生きる選択

台湾の労働市場で、若い世代が直面する現実はやや複雑だ。

TSMCの平均年収は台湾企業の中でも突出しており、新卒エンジニアでも年収NTD200万(約930万円)超というケースが増えている。これが「TSMC以外の会社では働けない」という感覚を一部の若者に生んでいる。

一方で、TSMCの強さが台湾全体のスタートアップエコシステムを圧迫しているという指摘もある。優秀なエンジニアが大企業に吸い込まれ、リスクを取ってベンチャーに行くインセンティブが薄い——これはシンガポールや韓国でも聞く話と似ている。

ただ、台湾には半導体以外にも独自の産業がある。自転車(ジャイアント、メリダ)、医療機器、精密部品、IT周辺機器の製造基盤は厚い。台湾の対外イメージがTSMCに集中しているだけで、経済の実態は半導体一色ではない。

集中した先に何があるか

産業の集中は、生態系の専門化に似ている。ガラパゴスのフィンチが島ごとに嘴の形を特化させたように、台湾は先端半導体製造という極めてニッチな能力を世界最高レベルで持っている。専門化した生物は、その環境で最強になる代わりに、環境が変わったときの脆弱性を抱える。

半導体製造の技術的な難易度が下がる未来が来れば、台湾の優位は縮む。逆に技術が複雑化し続ければ、集中はさらに進むかもしれない。どちらに転ぶかは、現時点では誰にも分からない。

台湾に住む外国人として感じることは、この国の人々が集中リスクを「問題」として語りながら、日常の感覚としてはそれほど不安を表に出さないことだ。地震リスクの高い場所に住み続けることに似た、慣れとも言えるし、受け入れとも言える距離感がある。

どこまでが計算され、どこからが惰性なのかは、外から来た人間には判断できない。


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