台湾の葬儀に電子花車が来る理由
台湾の葬儀には、ネオンで飾ったトラックの上でダンサーが踊る「電子花車」が現れることがある。派手で騒がしい送り方が生まれた背景には、台湾独自の死生観がある。
この記事の日本円換算は、1TWD≒4.8円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(TWD)の金額を基準にしてください。
台湾の地方都市を車で走っていると、道端にネオンで派手に装飾されたトラックが停まっていることがある。スピーカーから大音量の音楽が流れ、ステージ上でダンサーが踊っている。廟の祭りかと思いきや、葬儀だったりする。
電子花車とは何か
電子花車(ディエンツーホアチャー)は、トラックの荷台をステージに改造し、LEDライトやネオン管で装飾した移動式パフォーマンス車両だ。元々は廟の祭りや神の誕生日(神明生)のパレード用だったが、1980年代頃から葬儀でも使われるようになった。
トラックの荷台にはPAシステムが積まれ、歌手やダンサーが乗り込む。流れる音楽は台湾語の演歌(台語歌)が多いが、最近のヒット曲やEDMが流れることもある。
葬儀で電子花車を呼ぶ費用は、1台あたりTWD 30,000〜100,000(約144,000〜480,000円)。台数や出演者の格によって変わる。
なぜ葬儀に賑やかさが必要なのか
日本の葬儀は静謐さが基本だ。読経の声と焼香の煙。参列者は黒い服を着て、声を落として話す。
台湾の葬儀は、少なくとも一部の地域・宗教では、これと正反対の発想で設計されている。
台湾の民間信仰(道教と仏教と土着信仰の混合)では、人が死ぬとその魂はあの世への旅路につく。この旅路を寂しくしないために、賑やかに送り出す。人が多ければ多いほど、音楽が大きければ大きいほど、故人の面子(メンツ)が立つ。
「盛大な葬儀=故人への敬意」という構造は、日本の「静かな葬儀=故人への敬意」とは対極にある。
紙紮: あの世に届ける燃えるレプリカ
台湾の葬儀で日本人が驚くもう1つの要素が紙紮(ジージャー)だ。紙で作られた家、車、スマートフォン、テレビ、お金——これらを燃やしてあの世に届ける。
冥紙(あの世のお金)を燃やす習慣は中華文化圏に広くあるが、台湾ではこれが高度に発展している。専門の業者がiPhoneやベンツの紙製レプリカを制作しており、クオリティが高い。1台の紙製ベンツはTWD 3,000〜10,000(約14,400〜48,000円)程度。
「あの世でも快適に暮らせるように」という発想で、故人が生前好きだったものを紙で作って燃やす。最近ではペットの紙紮もある。
法事のスケジュール
台湾の葬儀は日本より長い期間をかけて行われることが多い。
- 頭七(トウチー): 死後7日目。魂が最初に戻ってくる日とされる
- 二七〜六七: 7日ごとに法事を行う(計6回)
- 満七(七七): 死後49日目。日本の四十九日と同じ概念
- 百日: 死後100日
- 對年: 死後1年
ただし、近年は都市部を中心に簡略化が進んでおり、頭七と満七だけ行うケースや、葬儀社に一括で依頼するケースが増えている。
葬儀産業の現在
台湾の葬儀産業は年間TWD 500億〜700億(約2,400億〜3,360億円)規模と推定されている。少子高齢化で年間死亡者数は増加傾向にあり、市場は拡大している。
一方で、電子花車は都市部では減少傾向にある。住宅地での騒音問題、若い世代の価値観の変化、そしてキリスト教式の葬儀が増えていることが背景にある。台北市内で電子花車を見ることは少なくなったが、台南・嘉義・高雄などの南部では今も健在だ。
葬儀のスタイルは都市化とともに変わりつつあるが、紙紮の文化は根強い。あの世に物を届けるという発想自体が、台湾の死生観の核だからだ。
台湾に住む日本人として
台湾に住んでいると、住宅街で突然葬儀の一行に遭遇することがある。道路にテントが張られ、祭壇が設置され、読経の声と爆竹の音が響く。最初は驚くが、やがてそれが日常の一部だと分かる。
台湾では死が「隠すもの」ではなく「共有するもの」として街の中にある。故人の写真が大きく引き伸ばされて道端に飾られ、近所の人が手を合わせに来る。日本のように斎場に集約されるのではなく、故人が住んでいた場所で葬儀が行われる。
派手か静かかの違いよりも、「死をどこに置くか」の設計思想が違う。台湾は、死を街の真ん中に置いている。