「台湾は親日」の裏側にある複雑な地層
台湾人は日本が好き——これは事実だが、その理由を「日本統治時代のインフラ整備」だけで説明するのは雑すぎる。親日感情の背景には、対中関係・世代差・消費文化など複数の地層がある。
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台湾の対日好感度は、各種世論調査で常に80%を超える。2024年の日本台湾交流協会の調査でも、台湾人の約77%が「最も好きな国」として日本を挙げた。
この数字は本物だ。だが「なぜ好きか」の構造は、日本人が想像するより複雑だ。
第1層: 日本統治時代の「記憶の選別」
日本統治時代(1895〜1945年)に台湾にダム、鉄道、学校、病院が建設されたのは事実だ。烏山頭ダムを設計した八田與一は今でも台湾で顕彰されている。
だが統治時代には皇民化政策、原住民の弾圧(霧社事件等)、差別的な制度もあった。台湾の人々がこの時代を「良かった」と振り返る傾向があるのは、次に来たものとの比較によるところが大きい。
第2層: 国民党統治との対比
1945年の日本敗戦後、台湾は中華民国(国民党)の統治下に入った。1947年の二二八事件では数千〜数万人の台湾人が犠牲になり(正確な数は今も議論がある)、その後38年間の戒厳令が続いた。
この経験が「日本統治の方がまだましだった」という相対的な評価を生んだ。日本統治への好感は、日本そのものへの評価であると同時に、国民党統治への反感の裏返しでもある。
第3層: 対中関係の関数
台湾の親日感情は、中国大陸との関係の関数としても読める。中国からの政治的圧力が強まるほど、台湾の人々は中国と対照的な存在——つまり日本やアメリカ——に親近感を持つ傾向がある。
「日本が好き」は「中国とは違う」というアイデンティティ表明と重なっている。特に若い世代では、親日感情と台湾独自のアイデンティティ意識が連動している。
第4層: 消費文化としての日本
台湾のデパートには日本ブランドが並び、ドラッグストアには日本の化粧品・薬が溢れ、書店には日本の翻訳本が棚を占める。日本のアニメ・ドラマ・音楽は台湾のポップカルチャーに深く浸透している。
この消費を通じた親近感は、歴史や政治とは別の回路で形成される。日本のスーパーで韓国のキムチを買う日本人が「韓国好き」になるのと似た構造だ。文化製品を通じた好感は、軽いが広い。
世代による温度差
台湾の親日感情は世代によって質が異なる。
- 高齢世代(80代以上): 日本語教育を受けた世代。日本語を話せる人もいる。個人的な体験としての日本への親近感
- 中間世代(50〜70代): 直接の統治経験はないが、親世代の記憶を継承。経済成長期の日本製品(ソニー、トヨタ)への信頼
- 若い世代(20〜40代): 歴史よりも文化消費。アニメ、旅行、ファッション。日本は「行きたい国」であり「推し」の対象
「親日」の居心地の悪さ
台湾に住む日本人として、この親日感情は嬉しい。だが同時に、居心地の悪さもある。
相手が自分の国を好いてくれる理由の一部に「別の国への反感」が含まれているとしたら、それは純粋な好意と言えるのか。植民地支配の歴史が「良い思い出」として語られることに、どう反応すべきなのか。
「台湾は親日」は入口に過ぎない。その先に広がる地層の複雑さを知ることが、台湾で暮らす日本人には必要だと思う。