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ダラーストアとフードスタンプ——アメリカの低所得者向け小売の構造

Dollar GeneralとDollar Treeだけで全米3万7,000店以上。アメリカの低所得者層の日常を支えるダラーストアの拡大と、フードスタンプ制度の仕組みを解説します。

2026-05-04
ダラーストアフードスタンプ貧困

この記事の日本円換算は、1USD≒155円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨(USD)の金額を基準にしてください。

アメリカで最も店舗数の多い小売チェーンは、Walmartではありません。Dollar General(ダラージェネラル)です。2024年時点で約19,800店舗。2位のDollar Treeも約16,300店舗(Family Dollarを含む)。合わせて36,000店超。これはStarbucks(約16,000店)の2倍以上です。

ダラーストアが最も出店密度が高い地域は、低所得者層が多い農村部と都市部のフードデザート(食の砂漠)。この2つのキーワードが、アメリカの消費構造の一側面を浮かび上がらせます。

ダラーストアのビジネスモデル

「ダラーストア」という名前ですが、全品$1ではありません。Dollar Treeはかつて全品$1でしたが、2022年に$1.25に値上げし、さらに$3〜$7の商品も導入しました。Dollar Generalは元から$1〜$10程度の幅があります。

共通するのは、小型店舗・低コスト運営・限定的な品揃えというモデルです。

特徴ダラーストアWalmart Supercenter
店舗面積700〜1,000㎡15,000〜20,000㎡
従業員数6〜10人300〜500人
商品SKU数約10,000約120,000
生鮮食品なし〜極めて限定的フルライン

売上の中心は加工食品、飲料、日用品、季節商品。生鮮食品をほぼ扱わないため、野菜や果物を買うことはできません。

フードデザートとダラーストア

USDA(アメリカ農務省)の定義では、フードデザートとは「最寄りのスーパーマーケットまで都市部で1マイル(約1.6km)以上、農村部で10マイル(約16km)以上離れている地域」です。全米で約1,900万人がフードデザートに住んでいると推計されています。

フードデザートではダラーストアが唯一の買い物先になることがあります。Walmartやスーパーマーケットは採算が合わないため出店しないが、ダラーストアは低コスト運営で成り立つ。

問題は、ダラーストアの食品はほぼ加工食品であるということです。缶詰、スナック、冷凍食品、ソーダ。栄養価の低い食品しか手に入らない環境が、肥満や糖尿病のリスクを高める——という研究が複数報告されています。

一部の自治体(オクラホマ市、アトランタ市等)は、ダラーストアの新規出店を制限するゾーニング規制を導入しました。しかしダラーストア業界は「買い物先がない地域に店を出しているのだから、制限するのは住民の不利益」と反論しています。

SNAP——フードスタンプの現在

フードスタンプ(Food Stamp)は現在SNAP(Supplemental Nutrition Assistance Program=補助的栄養支援プログラム)という名称です。低所得世帯に食料品の購入補助を提供する連邦プログラムで、約4,200万人が受給しています(USDA、2023年)。

SNAPの給付はEBT(Electronic Benefit Transfer)カードで行われます。見た目はデビットカードと同じ。受給者はスーパーマーケットやダラーストアでEBTカードを使って食料品を購入できます。

SNAPで買えるもの:

  • 食料品全般(肉、魚、野菜、果物、パン、乳製品)
  • 種子や食用植物

SNAPで買えないもの:

  • 調理済み食品(レストラン、ファストフード)
  • アルコール、タバコ
  • 日用品(石鹸、紙類等)
  • ペットフード

受給条件と金額

SNAPの受給条件は世帯収入に基づきます。

世帯人数月間総収入上限(2024年)最大月額給付額
1人$1,580(約24万円)$291(約45,105円)
2人$2,137(約33万円)$535(約82,925円)
3人$2,694(約42万円)$766(約118,730円)
4人$3,250(約50万円)$973(約150,815円)

実際の給付額は世帯の収入・資産・経費に基づいて計算され、平均的な1人あたり月額給付は$190〜$200程度です。1日あたり約$6.50。3食全てをSNAPでまかなうのは容易ではありません。

ダラーストアとSNAPの交差点

ダラーストアの多くはSNAP(EBTカード)に対応しています。SNAP受給者にとって、ダラーストアは最も近くて手軽な買い物先である場合が多い。

しかし先述の通り、ダラーストアで買えるのは主に加工食品です。SNAP受給者が新鮮な野菜や果物を買おうとすると、車で数十分のスーパーまで行く必要がある。車を持っていない場合、バスで2時間かけて買い物に行くか、ダラーストアの加工食品で済ませるか——という選択を迫られる。

この構造的な問題を解消するために、一部の自治体ではフードデザートへのファーマーズマーケット誘致や、SNAP受給者が野菜を買うと2倍の金額分が使える「Double Up Bucks」プログラムを実施しています。

在住日本人にとっての視点

アメリカの郊外を車で走っていると、Dollar GeneralやDollar Treeの看板は頻繁に目に入ります。日本の100均(ダイソー、セリア)と似ているように見えますが、社会構造における位置づけは異なります。

日本の100均は「安くて便利な雑貨店」です。全所得層が利用する。アメリカのダラーストアは「他に選択肢がない人の生活インフラ」としての側面が強い。

アメリカの消費格差は、どこで買い物をするかに如実に表れます。Whole Foods、Trader Joe's、Walmart、Dollar General——この4つの店の客層を比較すると、アメリカの所得分布がそのまま可視化されます。

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