政府が個人の土地を強制取得できる——エミネント・ドメインという米国の原則
アメリカでは「公共の利益」のために政府が個人の財産を取り上げることができます(エミネント・ドメイン)。その制度的根拠と、市民との衝突事例を解説します。
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「自分の土地だから何でもできる」——アメリカに来て、財産権への強い信念を感じる場面は多い。しかし同時に、政府が「公共の利益のため」と言えば個人の不動産を取り上げられる制度が、憲法に明記されている。
これがEminent Domain(エミネント・ドメイン:収用権)だ。
合衆国憲法第五修正条項
「正当な補償なくして私有財産を公共のために収用してはならない」——これは米国憲法修正第5条の一節だ。「公共のために収用できる」ことと「正当な補償が必要」なことを同時に定めている。
つまりエミネント・ドメインは財産没収ではなく、「補償を払った上での強制収用」だ。道路建設、鉄道路線、学校、公共施設——このような「公共目的」のために、個人の土地・建物を政府が取得できる。
何が「公共目的」か——Kelo事件
2005年のKelo v. City of New London判決で、連邦最高裁が「民間のエコノミック開発のための収用も合憲」という判断を示した。ニューロンドン市が老朽化した地区を民間のフォーミュラ・ファイザー製薬の研究開発施設建設のために収用しようとした事件だ。
「公共のため」が「民間企業の経済開発のため」にまで拡大された判断は大きな反発を呼んだ。「これでは政府が任意の個人の土地を、気に入った民間企業のために奪えることになる」という批判だ。判決後、多くの州が独自の「Kelo制限法」を制定して、私的目的への収用を制限する動きが相次いだ。
補償価格をめぐる争い
「正当な補償(Just Compensation)」の計算は、しばしば政府と土地所有者の争いになる。政府側は市場価値での評価を提示するが、「この場所に40年住んでいた」「商売をやめなければならない損失」などは市場価値に反映されないことがある。
土地所有者側は弁護士を立てて補償額を争う権利を持つ。これを「Condemnation」手続きという。
在米者が知っておくこと
住宅を購入する前に、該当地域の将来的な公共事業計画(高速道路の拡張、鉄道の新設等)を調査しておくことは、エミネント・ドメインリスクの軽減になる。地方自治体のマスタープラン(総合計画)や交通局の将来計画は多くが公開情報だ。
「自分の土地」が持つ意味が、日米で少し違う——その意識を持つことが、アメリカでの不動産生活を理解する第一歩だ。