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アメリカの立ち退き問題——家賃滞納からevictionまでの流れと入居者の権利

アメリカで家賃を滞納するとどうなるのか。Eviction(立ち退き)の法的プロセス、州ごとの違い、入居者が持つ権利と対応策をまとめます。

2026-05-04
立ち退き賃貸住居

この記事の日本円換算は、1USD≒155円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨(USD)の金額を基準にしてください。

アメリカでは毎年約350万件のEviction(立ち退き)訴訟が提起されています(Eviction Lab、プリンストン大学推計)。日本では家賃を数か月滞納しても、裁判所の判決なしに追い出されることはまずありません。アメリカでは州によって、滞納からわずか2〜3週間で法的な退去手続きが始まる場合があります。

Evictionの基本プロセス

州ごとに法律が異なりますが、一般的なEvictionの流れは以下の通りです。

Step 1: 通知(Notice to Pay or Quit)

家賃の支払い期日を過ぎると、家主はテナント(入居者)に書面で通知を送ります。「3日以内に支払うか、退去せよ」というのがカリフォルニア州の場合(3-Day Notice to Pay Rent or Quit)。テキサス州は3日、ニューヨーク州は14日など、州によって猶予期間が異なります。

Step 2: 裁判所への提訴

猶予期間内に支払いも退去もなければ、家主は裁判所にEviction訴訟(Unlawful Detainer)を提起します。テナントには裁判所から出廷通知が届きます。

Step 3: 裁判(Court Hearing)

テナントが出廷しなければ、家主側の勝訴がほぼ確定します(Default Judgment)。出廷して争う場合、正当な理由(家主側の契約違反、居住環境の問題等)があれば退去を免れる可能性があります。

Step 4: 執行(Writ of Possession)

裁判所が退去命令を出すと、Sheriff(保安官)がテナントの退去を執行します。テナントが自主的に退去しない場合、保安官が物理的に退去させ、家財道具を路上に出すケースもあります。

通知から実際の退去までの期間は、州によって大きく異なります。テキサス州では最短3〜4週間、ニューヨーク州では数か月かかることもあります。

州ごとの大きな差

アメリカの賃貸借法は連邦法ではなく州法で規定されるため、テナント保護の程度に大きな差があります。

テナント保護が強い州:

  • ニューヨーク州: Evictionに長期間かかる。Rent Stabilization(家賃安定化)制度がある地域ではさらに保護が厚い
  • カリフォルニア州: 2019年のAB 1482により、州全体で年間家賃上昇率がCPI+5%(最大10%)に制限
  • ニュージャージー州: 正当な理由(Just Cause)なしのEvictionを禁止している自治体が多い

テナント保護が弱い州:

  • テキサス州: Evictionプロセスが迅速。3日の通知後、1〜2週間で裁判
  • ジョージア州: テナント保護の州法が最小限
  • アーカンソー州: 家賃を5日以上滞納すると刑事罰の対象になる可能性(Criminal Eviction)

Eviction記録の影響

Evictionの裁判記録は公開情報です。テナント審査会社(Tenant Screening Company)がこの記録を収集し、次の賃貸申込時に家主に報告します。

Eviction記録があると、新しい住居を借りることが極めて困難になります。多くの家主はEviction記録のある申込者を自動的に拒否します。これが「一度Evictionされると住居を失い続ける」悪循環の原因です。

2024年時点では、一部の州・自治体がEviction記録の閲覧制限(Eviction Record Sealing)を導入し始めています。

在住日本人が知っておくべきこと

日本人の在住者がEvictionに直面するケースは多くありませんが、知識として知っておくべきポイントがあります。

リース契約を必ず読む: アメリカの賃貸契約書(Lease Agreement)は数十ページに及ぶことがあります。特に重要なのは、Late Fee(延滞料)の金額と発生条件、Eviction Noticeの条件、Security Deposit(敷金)の返還条件です。

家賃の支払い方法を確認する: アメリカでは個人小切手(Personal Check)、オンライン決済(Zelle、Venmo)、自動引き落とし(ACH)で家賃を払うことが一般的です。現金払いを受け付けない家主もいます。支払い方法と期日を確認し、自動支払いを設定するのが安全です。

問題があればテナント組合に相談する: 多くの都市にTenant Union(テナント組合)やLegal Aid(法律扶助)があり、無料で相談できます。家主との紛争が起きた場合、自力で対応せず、専門家に相談する方が結果的に安全です。

COVID-19が変えたもの

2020〜2021年のCOVID-19パンデミック中、CDCは全国的なEviction Moratorium(立ち退き猶予令)を発令しました。連邦最高裁が2021年8月にこの措置を違憲と判断して終了しましたが、パンデミック中に積み上がった家賃滞納額は推計$230億(約3.6兆円)に達しました。

ERA(Emergency Rental Assistance)プログラムにより$46.5億の家賃補助が支出されましたが、全ての滞納をカバーするには足りず、パンデミック後のEviction件数は一時的に急増しました。

アメリカの住居は「権利」ではなく「市場で取引される商品」として扱われている面があります。この前提を理解しておくことが、アメリカで住居を確保し続けるための基本的な心構えです。

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