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トランクルーム大国——モノを捨てられない国が生んだ5兆円産業

全米に5万ヶ所以上のトランクルーム施設が存在し、市場規模は約$39B。アメリカの消費文化と住宅事情が生み出した巨大インフラの実態を解剖します。

2026-05-13
消費文化トランクルーム住宅

この記事の日本円換算は、1USD≒155円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(USD)の金額を基準にしてください。

アメリカのトランクルーム(Self-Storage)の総面積は約17億平方フィート(約1.6億㎡)です(Self Storage Association, 2023年)。アメリカの全人口3.3億人で割ると、国民一人あたり約5平方フィート(約0.46㎡)のトランクルームが存在する計算になります。日本の標準的なトイレ(約0.4㎡)より広い空間を、一人ひとりがモノの保管用に確保している国。

数字で見る産業規模

  • 施設数: 全米約52,000ヶ所(2023年、IBISWorld)
  • 市場規模: 約$39.5B(約6.1兆円)(2023年、Grand View Research)
  • 利用世帯: 全米約10.6%の世帯が利用(SpareFoot調査)

マクドナルドの店舗数(全米約13,000店)の4倍です。スターバックス(約16,000店)の3倍以上。トランクルームはアメリカで最も密度の高い商業施設のひとつです。

なぜこれほど多いのか

住宅の転居頻度: アメリカ人は生涯で平均11.7回引っ越すとされています(U.S. Census Bureau)。転居のたびに「今の家に入りきらないが捨てたくないモノ」が発生します。トランクルームはその受け皿です。

郊外住宅のガレージ文化: 典型的なアメリカの一戸建てにはガレージがありますが、実際には車ではなくモノが詰まっていることが多い。アメリカ住宅の26%がガレージに車を停められない状態だという調査結果もあります(UCLA Center on Everyday Lives and Families)。ガレージが溢れると、次にトランクルームが登場する。

消費とセールの構造: Black Friday、Prime Day、Back to School セール——安売りのタイミングで大量に買い、使い切れないモノが蓄積していく。「安いから買う」と「保管する場所がないから預ける」が同時に起きています。

在住日本人の利用シーン

日本から赴任した駐在員がトランクルームを使うケースは珍しくありません。

  • 赴任先と帰任先で家具サイズが合わない(アメリカの家具は日本の間取りに入らない)
  • 一時帰国中に荷物を預けておく
  • 引っ越しのタイミングで退去日と入居日にギャップがある(アメリカでは2〜3日のギャップが発生しやすい)

10×10フィート(約2.8坪)のユニットで月$100〜200(約15,500〜31,000円)程度。都市部ではこの2〜3倍になります。気温管理付き(Climate-Controlled)のユニットはさらに20〜30%高い。

トランクルーム投資

不動産投資の世界では、トランクルームは「利回りが高く管理コストが低い」資産クラスとして注目されています。

入居率は全米平均で約90%(Yardi Matrix, 2023年)。住居用不動産と異なり、入居者が住む場所ではないため管理トラブルが少ない。破損リスクもほぼなく、REITとしても上場銘柄が複数あります(Public Storage, Extra Space Storage等)。

「Storage Wars」が映すもの

リアリティ番組「Storage Wars」は、料金滞納で放棄されたトランクルームの中身をオークションにかける番組です。2010年から放送が続き、累計300エピソード以上。

この番組が成立すること自体が、アメリカの消費文化を象徴しています。預けたモノに月々の保管料を払い続け、やがて払えなくなって手放す。モノを「所有している」のか、モノに「所有されている」のか。

日本から来ると、この規模のモノへの執着は異質に見えるかもしれません。しかし数年住むと、自分もいつの間にかガレージにモノが増えていることに気づく。消費の重力は、住む場所の環境が決めます。

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