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ベトナムが「China+1」の主役になった理由——中国から移転した工場と、その先にある課題

米中摩擦で加速したChina+1戦略。2023年のFDI186億ドル、サムスン・インテル・ナイキの工場集積、最低賃金の中国比較、電力不足・インフラ・人材育成というNext Challengeを読み解く。

2026-04-09
China+1ベトナム経済外資直接投資製造業サムスンFDI

この記事の日本円換算は、1VND≒0.006円(100万VND≒6,000円)で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(VND)の金額を基準にしてください。

2018年、米中貿易戦争が本格化したとき、製造業のサプライチェーン担当者たちは地図を広げて「中国以外でどこに工場を作れるか」を探した。その視線がまず向いた先がベトナムだった。

理由はシンプルだ。中国と陸続きで物流コストが低い、人件費が中国より安い、若い労働人口がある、政府が外資優遇政策を積極的にとっている。

China+1とは何か

「China+1(チャイナプラスワン)」は、製造業企業が中国への一極集中リスクを分散するため、中国以外のアジア国に追加の生産拠点を持つ戦略だ。2018〜2019年の米中追加関税(対中輸出品に最大25%の関税を課す)によって、この戦略の実行を加速する企業が一気に増えた。

COVID-19パンデミック(2020〜2022年)での中国工場ロックダウンが「1国集中リスク」をさらに可視化し、China+1は製造業の常識となった。

ベトナムはそのChina+1の主要移転先として、東南アジアで最も多くの工場流入を受けた国のひとつだ。

外資直接投資の規模

ベトナム計画投資省(MPI)の公式データによると、2023年のベトナムへの外資直接投資(FDI)登録額は約362億ドル、実行額(disbursed)は約232億ドルに達した。

FDIの累計残高ベースで見ると、韓国が最大の投資国であり、以下に日本・シンガポール・台湾が続く。

主な投資企業と分野:

企業・国分野規模・内容
サムスン電子(韓国)半導体・スマートフォン製造ベトナム最大の外資企業。ハノイ近郊・ホーチミン近郊の複数工場
インテル(米国)半導体テスト・組立ホーチミン市にアジア最大のテスト工場
LG電子(韓国)家電・ディスプレイ製造ハイフォン工業団地
ナイキ・アディダス等(サプライヤー経由)スポーツ用品南部〜北部の縫製・靴工場
フォックスコン等(台湾)電子機器組立iPhone供給ラインのベトナム移転

サムスン電子のベトナム事業は同社の世界最大のスマートフォン生産拠点のひとつになっており、ベトナムの全輸出に占めるサムスングループの割合は20〜25%に達するとされる。「サムスン1社でベトナム輸出の4分の1を占める」という構造は、依存リスクとして議論される。

人件費比較——なぜ中国より安いのか

ベトナムの最低賃金(2024年時点)は地域によって異なり、ハノイ・ホーチミン市等の都市部(第1地域)で月額468万VND(約28,000円)、農村部・地方(第4地域)で330万VND(約19,800円)となっている。

中国の最低賃金(月額)は都市・省によって差があり、上海・北京・広東等の主要都市では月額2,500〜2,690人民元(約50,000〜54,000円)程度だ。

単純比較すると、ベトナムの都市部最低賃金は中国主要都市の50〜60%程度の水準になる。実際のスキルド労働者(技術職・工程管理者)の給与は最低賃金より高く、格差は縮小するが、全体的な人件費優位は依然として残っている。

ただし「安い」だけで工場を動かせるわけではない。品質管理・生産効率・サプライチェーン管理の人材が中国の方が相対的に蓄積されており、技術難易度が上がるほどベトナムの優位は薄れる、という指摘もある。

ベトナムのNext Challenge——3つの課題

China+1の主役として注目を集めるベトナムだが、課題も顕在化している。

電力不足

2023年夏、北部ベトナム(ハノイ周辺)で計画停電が相次いだ。工業団地の工場が週数日操業停止を余儀なくされた事例が報告されている。背景には急増する電力需要に対して、発電インフラの整備が追いついていないことがある。

ベトナムは石炭火力が発電の主力だが、環境規制・石炭価格の影響を受けやすい。太陽光発電の急増(政府の優遇政策)もあるが、送電網の整備が不十分で「発電できても使えない」電力ロスが発生している。

外資工場にとって電力の安定供給は操業の前提条件であり、電力問題は投資判断の重要な懸念材料になっている。

インフラ

港湾・道路・物流インフラの整備が工場誘致のスピードに追いついていない地域がある。ハノイ〜ホーチミン間の物流(約1,700km)は鉄道貨物より陸路トラックが主流で、移動時間・コストが問題になる場合がある。

ホーチミン市の港(カイメップ・ティーバイ港)整備、ハノイ近郊の新国際空港(ノイバイ第2ターミナル)等、政府のインフラ投資は進んでいるが、需要増に追いついていない側面がある。

人材育成

製造業の高度化(単純組立から複雑な工程・R&D・設計へ)に必要な人材の供給が追いついていない。技術系大学・専門学校の卒業者数は増えているが、即戦力として工場に投入できる中間管理職・技術者の層が薄い、という外資企業からの声がある。

在住日本人にとってのベトナム

ベトナムは在住日本人が多い国のひとつで、外務省の2023年データでは約17万人(長期滞在者を含む)が在住している。ホーチミン市・ハノイに集中し、製造業・商社・サービス業での就労が主な背景だ。

China+1トレンドが続く中、製造業・物流・品質管理の日本人専門家の需要はベトナムで安定的にある。日系工場での工場長・品質管理マネージャー・購買・生産管理のポジションは継続的に募集されている。

一方で、現地採用での給与水準(月額20〜50万円程度が相場観)と日本での収入との比較、生活費(ホーチミン・ハノイは物価上昇が続いている)のバランスは、移住を検討する際の具体的な計算になる。


参考情報

  • Vietnam Ministry of Planning and Investment (MPI): FDI Statistics 2023
  • General Statistics Office of Vietnam: Trade and investment data
  • Vietnam Ministry of Labour, Invalids and Social Affairs: Minimum wage regulations
  • JETRO(日本貿易振興機構): ベトナム投資環境報告

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