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ベトナムコーヒー——世界2位の生産国がロブスタ種に賭けた理由

ベトナムは世界第2位のコーヒー生産国だが、その主力はアラビカ種ではなくロブスタ種。苦くて安いとされるロブスタが、ベトナムの気候・経済・飲み方と完璧に噛み合った構造を辿る。

2026-05-05
コーヒーロブスタ農業食文化

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世界のコーヒー生産量ランキング。1位ブラジル、2位ベトナム。3位のコロンビアを大きく引き離して2位——だが、コーヒー好きの日本人でも「ベトナムが2位」と聞いて驚く人は多い。国際コーヒー機関(ICO)の2023/24年度統計で、ベトナムの生産量は約2,900万袋(1袋=60kg)。ブラジルの約6,600万袋に次ぐ規模です。

ロブスタが主力という異端

コーヒー豆には大きく2種類あります。アラビカ種(世界の生産量の約60%)とロブスタ種(約40%)。スペシャルティコーヒーの世界ではアラビカ種が圧倒的に主流で、ロブスタ種は「苦い」「雑味がある」「インスタントコーヒーの原料」というイメージが強い。

ベトナムのコーヒー生産の約95%がロブスタ種です。ブラジルやコロンビアがアラビカ種で世界市場を支配する中、ベトナムはロブスタ種に特化するという全く異なる戦略を取りました。

中部高原の気候が決めた

ロブスタ種はアラビカ種より低い標高(海抜200〜800m)で育ち、病害虫に強く、収穫量が多い。ベトナム中部高原のダクラク省やラムドン省は、標高500〜600m、年間降水量1,500〜2,500mm、平均気温22〜25度——ロブスタ種の栽培に最適な条件が揃っています。

1986年のドイモイ(経済刷新)以降、政府は中部高原でのコーヒー栽培を奨励しました。国営農場が分割され、個人農家にコーヒー栽培の土地が配分された。1990年代に生産量が急増し、2000年代にはブラジルに次ぐ世界第2位のポジションを確立しました。

わずか20年で世界2位に駆け上がったスピードは、コーヒー産業の歴史で他に例がありません。

cà phê sữa đáの合理性

ベトナムコーヒーの飲み方は独特です。アルミ製のフィルター(phin)で濃く抽出し、たっぷりのコンデンスミルク(練乳)を混ぜ、氷を入れる。これがcà phê sữa đá(カフェ・スア・ダー)。

この飲み方はロブスタ種と完璧に噛み合います。ロブスタ種の強い苦みとコクは、練乳の甘さで中和される。アラビカ種の繊細な風味を練乳で殺してしまったら台無しですが、ロブスタ種の場合は逆にバランスが取れる。

路上のカフェでcà phê sữa đáは20,000〜35,000VND(約USD 0.8〜1.4、約124〜217円)。スターバックスのアイスラテが85,000VND(約USD 3.4、約527円)前後なので、価格差は約3倍です。

コーヒーベルトと経済

ベトナムのコーヒー産業は約280万人の雇用を支えています(ベトナムコーヒー・ココア協会、2023年)。輸出額は年間約40億USD(約6,200億円)。コメに次ぐ農産物輸出品目です。

ただし、収穫から輸出までの付加価値の大部分はベトナム国外で発生します。焙煎・ブランディング・小売の利益はネスレやJDE Peet'sなどの多国籍企業が取っている構造です。ベトナム国内でも「Trung Nguyên(チュングエン)」がプレミアム路線で国内ブランドを育てていますが、グローバルでの知名度はまだ限定的です。

サードウェーブの到来

2010年代後半から、ホーチミンやハノイにスペシャルティコーヒーのカフェが増えています。ダラットなどの高地で栽培されるベトナム産アラビカ種を使い、浅煎りのハンドドリップで提供する店が出てきた。

「ベトナムコーヒー=練乳+ロブスタ」というイメージが変わりつつあるのは事実です。ただ、街中の主流は依然としてphinで淹れたcà phê sữa đá。40度を超えるホーチミンの午後に、低い椅子に座って氷入りコーヒーをすする——この飲み方がなくなることはないでしょう。

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