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ベトナムがコーヒー世界第2位の輸出国なのに、なぜベトナムコーヒーは有名じゃないのか

ベトナムはブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー輸出国(ICO統計)。しかしブランド認知ではコロンビアやエチオピアに遠く及ばない。生産力とブランドは別物という産業論。

2026-04-07
ベトナムコーヒー輸出ブランド農業産業

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ベトナムは世界第2位のコーヒー輸出国だ。国際コーヒー機関(ICO)の統計によると、2023年のベトナムのコーヒー輸出量は約2,700〜2,900万袋(60kg袋換算)で、ブラジル(約6,000〜6,500万袋)に次ぐ。コロンビア(約1,200万袋)、インドネシア(約1,000万袋)、エチオピア(約800万袋)を大きく引き離している。

なのに「ベトナムコーヒー」は、「コロンビアコーヒー」や「エチオピアコーヒー」ほど有名ではない。スターバックスでベトナム産のシングルオリジンを見ることは稀だ。なぜ世界2位の生産国なのにブランドがないのか。

理由1: ロブスタ種が主力

コーヒーには大きく分けてアラビカ種とロブスタ種がある。世界のコーヒー市場では、アラビカ種が「高品質」、ロブスタ種が「大量消費向け」という位置づけだ。

ベトナムのコーヒー生産の約95%がロブスタ種(ベトナム農業農村開発省)。中部高原地帯(ダクラク省、ラムドン省)の火山灰土壌と気候がロブスタの栽培に適している。

ロブスタ種は苦味が強く、酸味が少なく、カフェインが多い。インスタントコーヒーの原料として世界中で使われている。ネスレ、ジェイコブス、UCC——世界のインスタントコーヒーの大部分にベトナム産ロブスタが入っている。

だが消費者は「ネスカフェ」のブランドは知っていても、その原料がベトナム産であることは知らない。最終製品のブランドが原料国のブランドを覆い隠す構造だ。

理由2: B2B取引が中心

コロンビアコーヒーが世界的に有名なのは、コロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)が1958年から「Juan Valdez」というキャラクターを使ったマーケティングを展開してきたからだ。農家のおじさんがロバと一緒にコーヒー豆を運ぶ——このイメージは世界中で認知されている。

エチオピアは「コーヒー発祥の地」というストーリーを持ち、イルガチェフェやシダモといった産地名がスペシャルティコーヒー市場でブランド化されている。

ベトナムにはこのどちらもない。ベトナムのコーヒーは、大手ロースターやインスタントメーカーにコンテナ単位で売られる「B2B商品」だ。消費者の目に触れない。ブランド化の投資がほぼ行われてこなかった。

理由3: 価格競争のポジション

ベトナムコーヒーの強みは「安さ」だ。ロブスタ種は生産コストが低く、大量生産に向く。国際市場でのベトナム産ロブスタの価格は、アラビカ種の約半分〜3分の2程度。

この「安さ」が市場でのポジションを固定している。バイヤーはベトナムから「安いロブスタ」を買い、最終製品の原料として使う。ベトナム側もこのポジションで安定した収益を得ている。

価格競争のポジションからブランド競争のポジションに移行するには、品質向上への投資・マーケティング投資・流通チャネルの構築が必要だが、現状の「安く大量に売る」ビジネスモデルが十分に機能しているため、変える動機が弱い。

変化の兆し: スペシャルティコーヒーへの挑戦

ただし変化も起きている。

ダラットやソンラ省では、アラビカ種の栽培が増えている。ベトナム産アラビカのスペシャルティコーヒーは、国際的なコーヒー品評会で評価を受け始めている。

国内ブランドでは、Trung Nguyen(チュングエン)がベトナムコーヒーのブランド化を進めている。同社の「G7」インスタントコーヒーは東南アジア市場でシェアを拡大し、米国にも進出している。The Coffee HouseやHighlands Coffeeなどのカフェチェーンもベトナム国内で急成長中だ。

さらに「ベトナムコーヒー」のスタイル——コンデンスミルクを入れたカフェ・スア・ダ(Cà phê sữa đá)やエッグコーヒー(Cà phê trứng)——が、欧米のスペシャルティコーヒー市場で「エキゾチックな飲み方」として注目され始めている。

「生産力」と「ブランド」は別の能力

ベトナムのコーヒー産業の話は、もっと一般的な産業の教訓を含んでいる。

「たくさん作れること」と「高く売れること」は別の能力だ。生産量で世界2位でも、ブランドがなければ利益率は低い。中国が世界の工場として圧倒的な生産量を誇りながら、ブランド価値ではヨーロッパや日本に及ばないのと同じ構造だ。

コロンビアのコーヒー生産量はベトナムの半分以下だが、「コロンビアコーヒー」のブランド認知度は遥かに高く、プレミアム価格で取引されている。ブランドへの60年以上の投資がその差を作った。

ベトナムで飲むコーヒーの体験

ベトナムに住むと、コーヒーの飲み方が変わる。

路上の小さなプラスチック椅子に座って、アルミのフィン(ベトナム式ドリッパー)からポタポタと落ちるコーヒーを待つ。グラスの底にはコンデンスミルクが沈んでいる。抽出が終わったらかき混ぜて、氷を入れて飲む。1杯20,000〜40,000VND(USD 0.8〜1.6、約126〜253円)。

この飲み方自体が、実はブランド化の種になりうる。日本の抹茶が「Matcha」として世界ブランドになったように、「Cà phê sữa đá」がグローバルな飲み方として定着する可能性は十分にある。

世界2位の生産国であることは強みだ。問題は、その強みを「安さ」以外の価値に変換できるかどうか。生産力は既にある。足りないのはブランドだ。そしてブランドは、生産力の延長線上にはない。全く別の投資と時間が必要になる。

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