Viet Kieu——海外に散ったベトナム人が「帰国」するとき何が起きるか
全世界に約500万人いるViet Kieu(海外在住ベトナム人)。祖国に送金し、不動産を買い、起業する。この逆流現象がベトナム経済に与える影響と、日本人が見落としている構造。
この記事の日本円換算は、1USD≒155円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(USD)の金額を基準にしてください。
ベトナムのGDPの約5%は、海外にいるベトナム人からの送金で構成されている。2023年の海外送金受取額は約160億USD(約2.5兆円、世界銀行推計)。人口1億人の国に、外から毎年2.5兆円が流入する。
この送金の源泉はViet Kieu(ヴィエッキウ)——海外在住ベトナム人だ。
500万人のディアスポラ
1975年のサイゴン陥落以降、数百万人のベトナム人がアメリカ、フランス、オーストラリア、カナダ等に移住した。現在、海外に約500万人のベトナム系住民がいる。
アメリカだけで約230万人。カリフォルニア州のリトルサイゴンは、ベトナム国外で最大のベトナム人コミュニティだ。
この500万人が生み出す経済的インパクトは大きい。送金だけでなく、帰国投資・起業・不動産購入が、ベトナム国内の経済構造を変えている。
Viet Kieuの「帰国」
2000年代以降、ドイモイ(経済改革)で成長するベトナムに、Viet Kieuが帰国するケースが増えている。「帰国」といっても永住帰国は少数で、多くは二拠点生活だ。
アメリカで稼いだ資金でホーチミンにアパートを買う。フランスのパスポートを持ったままベトナムで飲食店を開く。カナダの年金を受け取りながらダナンで暮らす。
ベトナム政府は2015年からViet Kieuの不動産所有を条件付きで認めた(リースホールド最大50年)。この規制緩和がViet Kieuの帰国投資を加速させた。
日本人が見落としている構造
日本人がベトナムに住むとき、「ベトナム=途上国」というフレームで見てしまうことがある。だがホーチミン7区(Phu My Hung)の高級コンドミニアムの購入者の多くはViet Kieuだ。
ルーフトップバーで英語とベトナム語を切り替えながらビジネスの話をしている人たちは、LAやパリで育ち、シリコンバレーで働き、ホーチミンに戻ってきたViet Kieuかもしれない。
ベトナム社会には「国内で生きてきた人」と「海外を経由して戻ってきた人」の二層構造がある。後者は英語力・国際経験・資金を持っている。この層の存在が、ベトナムの起業シーンやテック産業の成長を底支えしている。
送金のインフラ
Viet Kieuの送金は、公式チャネル(銀行・Wise・Remitly等)だけでなく、非公式チャネルも含めると実態は統計以上に大きいとされる。
金細工店(Tiem Vang)が送金の中継点になっていた歴史がある。現在は銀行送金とモバイル送金が主流になったが、地方部では今でも非公式ルートが残っている。
二重のアイデンティティ
Viet Kieuは「外国人として扱われるベトナム人」だ。ベトナム語を話すが発音が違う。顔はベトナム人だが服装が違う。地元の人にはすぐわかるという。
日本人の海外在住者も、帰国時に似た感覚を味わうことがある。どちらの国にも完全には属さない——Viet Kieuの経験は、海外に住むすべての人が共有する構造的なテーマだ。