ホーチミンは毎年沈む——「浸水都市」で暮らすという選択
雨季になるとホーチミンの主要道路が冠水する。地盤沈下と排水インフラの限界、浸水リスクの高いエリアと低いエリア、在住者の備え方を解説する。
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ホーチミンの雨季(5月〜11月)、午後3時に空が暗くなり、30分間の集中豪雨が降る。雨が止んだ後に外に出ると、大通りが川になっている。バイクが水しぶきを上げて走り、膝まで浸かりながら歩く人がいる。
2024年の雨季、ホーチミンでは年間150件以上の道路冠水が記録された(ホーチミン市洪水防止センターの報告)。これは年々増加している。ホーチミンは都市として成長しているが、同時に物理的に沈み続けている。
なぜホーチミンは浸水するのか
原因は3つ重なっている。
地盤沈下。 ホーチミンはメコンデルタの軟弱地盤の上に建っている。地下水の過剰汲み上げにより、年間2〜4cmの地盤沈下が起きているとされる(国際研究グループの観測値)。50年で1〜2メートル沈んだ計算になる。海面上昇と合わせると、ホーチミンの一部地域は2050年までに恒常的な浸水リスクに晒されるとの予測がある。
排水インフラの老朽化。 ホーチミンの下水・排水システムの多くはフランス植民地時代に設計されたもので、当時の人口100万人を前提にしている。現在の人口は1,000万人以上。処理能力が10分の1しかない計算だ。
急速な都市化。 池や湿地帯がコンクリートで覆われ、雨水の浸透面積が激減した。かつて水を吸収していた自然のスポンジが消え、雨水がそのまま道路に溢れる。
浸水リスクの高いエリアと低いエリア
在住者として知っておくべきは、エリアによって浸水リスクが大きく異なることだ。
浸水リスクが高いエリア。 ビンタン区(Bình Thạnh)、トゥードゥック市(Thủ Đức)の低地エリア、グエンフーカイン通り(Nguyễn Hữu Cảnh)周辺。特にグエンフーカイン通りは「ホーチミンで最も浸水しやすい道路」として知られ、大雨のたびにバイクが水没する映像がSNSに上がる。
比較的安全なエリア。 1区の中心部、3区、タオディエン(2区の一部、ただしサイゴン川沿いは注意)。これらは標高がやや高く、排水インフラも優先的に整備されている。7区のフーミーフン(Phú Mỹ Hưng)は新興開発地区で排水システムが新しく、浸水被害は少ない。
在住者の浸水対策
ホーチミンに住む日本人が実践している対策をいくつか紹介する。
バイクの駐車場所。 雨季はバイクを1階に停めない。マンションの地下駐車場は冠水リスクがあるため、高い階層の駐車スペースを確保する。バイクが水没すると修理費は500万〜1,000万VND(約$210〜420、約32,500〜65,000円)。
通勤時間の調整。 午後2時〜5時のスコール時間帯を避ける。在宅勤務を雨季に増やす駐在員もいる。
防水バッグ。 ノートパソコンやパスポートは防水バッグに入れて持ち歩く。バイクで移動中にスコールに遭うと、10分で全身ずぶ濡れになる。
住居選び。 2階以上の部屋を選ぶ。1階の物件は雨季に浸水するリスクがある。内覧時に「雨季にこのエリアは冠水しますか」と大家に聞くのは必須。
政府の対策
ホーチミン市は洪水対策に数十億ドル規模の投資を行っている。日本のODA(政府開発援助)で建設されたニエウロック=ティゲー運河(Nhiêu Lộc - Thị Nghè Canal)の浄化・拡張プロジェクトは、1区〜ビンタン区の排水改善に貢献した。
しかし、都市化のスピードがインフラ整備のスピードを上回っている。完成した排水路の処理能力を、翌年にはまた開発で増えた舗装面積が上回る。追いかけっこの状態が続いている。
それでもホーチミンを選ぶ理由
浸水問題を知ったうえでホーチミンに住む選択をする人は多い。年間150日近く雨が降り、道路が冠水し、バイクが水没するリスクがある。しかし、家賃の安さ、食事の美味しさ、人の活気、ビジネスの機会——それらが浸水のリスクを上回ると判断する人がいる。
完璧な都市はない。東京には地震がある。バンコクには渋滞がある。ホーチミンには浸水がある。その不便をどこまで許容できるかが、都市を選ぶときの本当の判断基準だ。
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