ベトナムで外国人と現地人の給与差が生まれる構造的な理由
ベトナムにおける外国人と現地人の給与差が生まれる法的・経済的な構造を解説。スキル需給・就労許可コスト・格差の縮小傾向を整理。
この記事の日本円換算は、1USD≒158円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、USD建ての金額を基準にしてください。
ベトナムで働く日本人の多くが経験する、気まずい瞬間があります。現地のベトナム人同僚の月給が自分の3分の1以下だと知ったとき。
ベトナムの平均月給は約740万VND(約$290、約46,000円)(ベトナム統計総局、2024年第4四半期)。一方、ベトナムで働く外国人の給与は、駐在員でUSD 3,000〜10,000/月、現地採用でもUSD 1,500〜4,000/月が一般的なレンジです。
この差は「外国人だから高い」という単純な話ではなく、法的制限・スキル需給・コスト構造が重なった結果です。
法的制限——就労許可のコストが給与に上乗せされる
ベトナムで外国人を雇用するには、企業側に大きな手続きコストがかかります。
就労許可(Work Permit)の要件
ベトナムの労働法(Labor Code 2019, Article 151-158)では、外国人の雇用に以下の条件を課しています。
- ベトナム人では代替できない業務であること: 企業は「なぜこのポジションに外国人が必要か」を労働当局に説明する義務がある
- 大卒以上+3年以上の関連経験: 学歴と実務経験の証明が必要
- 犯罪経歴証明書: 居住国での犯罪歴がないことの証明
- 健康診断書: ベトナムの指定医療機関での健康診断
企業にかかるコスト
就労許可の取得にかかる直接費用は1人あたりUSD 500〜1,500程度(申請料、翻訳・公証費用、弁護士費用を含む)。これに加えて、人事部門の工数が数週間分消費されます。
さらに、外国人従業員には社会保険の加入義務があり(2025年時点で段階的に導入)、企業負担分が加算されます。
この「外国人を雇うための追加コスト」が、外国人の最低給与水準を押し上げる要因の一つです。企業は就労許可の取得コストを回収できる程度の付加価値を外国人に求めるため、低い給与では雇用の合理性がなくなります。
スキル需給——特定スキルの希少性
外国人が求められる領域
ベトナムで外国人に高い給与が払われるのは、以下の領域です。
- マネジメント: 海外本社との橋渡し、グローバル基準の品質管理、多国籍チームのリード
- 技術専門職: 製造業の生産技術、IT(特にAI・クラウド・サイバーセキュリティ)、金融のリスク管理
- 語学力: 日本語・英語・韓国語等のビジネスレベルの語学力を持ち、かつ専門スキルがある人材
これらの領域では、ベトナム国内の人材供給が需要に追いついていません。特に日系企業では、日本語でのコミュニケーション+製造業の知識を持つ人材が必要ですが、これを満たすベトナム人はまだ限られています。
ベトナム人材の急速な成長
一方で、この構図は急速に変わりつつあります。
ベトナムの大学進学率は上昇を続けており、IT分野では毎年数万人の卒業生が輩出されています。プログラミングスキルを持つ若いベトナム人エンジニアの給与は月1,500万〜3,000万VND(約$590〜$1,180)まで上がっており、経験3〜5年の中堅層では4,000万〜6,000万VND(約$1,570〜$2,360)に達することもある。
外国人エンジニアの給与レンジ(USD 2,000〜5,000)と、ベトナム人中堅エンジニアの給与レンジが近づいてきている。「外国人だから高い」ではなく「スキルが高いから高い」に変わりつつあるのが現在の状況です。
駐在員と現地採用——外国人の中の格差
外国人の中にも明確な給与格差があります。
駐在員
日本の本社から派遣される駐在員は、日本の給与ベース+海外赴任手当+住居手当が支給されるため、月額で40万〜100万円以上になることも。これはベトナムの市場価格ではなく、日本の人事制度の延長です。
現地採用
ベトナムで直接雇用される日本人の場合、給与は現地の市場価格に近づきます。月USD 1,500〜3,000(約24万〜47万円)が多い。日本人としては低いと感じるかもしれませんが、ベトナムの平均月給の5〜10倍です。
格差が生む職場のダイナミクス
同じオフィスで、駐在員が月100万円、現地採用の日本人が月30万円、ベトナム人マネージャーが月15万円、一般スタッフが月5万円——この4層構造は、ベトナムの日系企業ではよくある光景です。
この格差は、表面的には「能力差」で説明されますが、実態は「どこの会社に所属しているか」「どの国の人事制度で雇われているか」によるところが大きい。
格差は縮まっている——どの程度、どの速度で
ベトナム政府は最低賃金を毎年引き上げています。2024年7月の改定では、Region I(ハノイ・ホーチミン等の都市部)の最低月給は496万VND(約$195)に引き上げられました(政令第74/2024/ND-CP号)。
この10年で最低賃金は約2倍になっています。中間層の給与上昇はさらに早く、特にIT・金融・製造業のマネジメント層では年10〜15%の給与上昇が続いています。
一方、外国人の給与はほぼ横ばいか、むしろ下がるケースもある。ベトナム人の能力向上に伴い、「外国人でなくてもできる仕事」が増え、外国人プレミアムが縮小しているためです。
5〜10年のスパンで見ると、「外国人の給与」と「ベトナム人の給与」の差は確実に縮まっています。ただし、日本語ネイティブとしての語学力やグローバルマネジメント経験など、ベトナム国内で代替しにくいスキルを持つ人材への需要は今後も残ります。
給与差は「外国人だから」ではなく、「その人のスキルがベトナム市場で希少かどうか」で決まる時代に移行しつつある。これはベトナムで働く日本人にとって、安心材料でもあり、危機感を持つべき変化でもあります。