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ベトナムの工業団地で最も見かける外国語は、日本語だ

ベトナム全土に約400ある工業団地のうち、日系企業が集中するエリアでは看板も食堂メニューも日本語化する。チャイナプラスワンの受け皿となったベトナムの日系製造業の現場を解説する。

2026-05-07
ベトナム日系企業製造業工業団地駐在

この記事の日本円換算は、1USD≒155円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(USD)の金額を基準にしてください。

ホーチミン市中心部から車で1時間半。ビンズオン省の工業団地に入ると、風景が一変する。

整備された道路、均一な工場建屋、セキュリティゲート。その中に「○○精密」「△△電子」といった日本語の看板が並ぶ。食堂のメニューにカツカレーがあり、掲示板に「安全第一」のポスターが日本語で貼られている。ここだけ見ると、埼玉や愛知の工業地帯と錯覚する。

数字で見る日系プレゼンス

JETROの統計によれば、ベトナムに進出している日系企業は約2,000社(2024年時点)。このうち製造業が過半数を占め、多くが工業団地に入居している。

ベトナム全土で約400の工業団地が稼働中だが、日系企業が特に集中するのは以下のエリアだ。

北部(ハノイ周辺)。 タンロン工業団地(ハノイ)はキヤノン、パナソニックなど大手製造業が入居する日系の代表的な拠点だ。ハイフォン、バクニン、タイグエンにも日系工場が散在する。

南部(ホーチミン周辺)。 ビンズオン省のVSIP(ベトナム・シンガポール工業団地)、ドンナイ省のアマタシティ、ロンアン省の各工業団地に日系中小企業が多い。

中部。 ダナン市のダナンIT パーク、ハイテクパークに日系IT企業が進出し始めている。製造業の拠点としてはまだ限定的だ。

なぜベトナムに来たのか

「チャイナプラスワン」という言葉は2010年代に流行語になったが、日系製造業のベトナムシフトはそれ以前から始まっていた。

人件費。 ベトナムの製造業の平均月給はワーカーレベルで300〜500USD(約4.7〜7.8万円)。中国の沿岸部が600〜1,000USDに上昇した2010年代後半、コスト差が移転の決定打になった。ただし、ベトナムの賃金も毎年5〜8%のペースで上昇しており、「安いから」という理由だけではいずれ成り立たなくなる。

人口構成。 ベトナムの人口は約1億人。中央年齢は約31歳(2024年推計)で、労働力が若い。ただし出生率は低下傾向にあり、2030年代には人口ボーナスが終わるとの予測もある。

政治的安定と親日感情。 ベトナム政府は外資誘致を国策としており、工業団地への税制優遇(法人税の減免措置等)がある。また、ODAの歴史を背景に日本に対する好意的な感情がベースにある。

工業団地の中の「小さな日本」

日系工場の内部では、日本式の生産管理が導入されている。5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)は基本中の基本で、朝礼でベトナム人スタッフが日本語の号令を唱和する工場もある。

面白いのは、この「日本式」がベトナム人スタッフによって微妙にローカライズされることだ。QCサークル(品質管理サークル)の発表会でベトナム人チームが独自の改善提案を出し、日本の本社が逆に学ぶケースもある。「日本式をそのまま移植する」フェーズは終わりつつあり、「ベトナム人が日本式を消化して再発明する」フェーズに入っている工場が増えている。

駐在員の生活

工業団地の駐在員は、ホーチミンやハノイの中心部に住んで毎日1〜2時間かけて通勤するか、工業団地の近くのサービスアパートメントに住むかの二択になる。

工業団地周辺に住む場合、生活の利便性は都市部より落ちる。日本食レストランは限られ、娯楽施設も少ない。一方で家賃は安い。ビンズオン省のサービスアパートメントなら月500〜800USD(約7.8〜12.4万円)で広い部屋が借りられる。

通訳・アシスタントとして日本語人材が不可欠だが、優秀な日本語話者の争奪戦は激しい。日本語能力試験(JLPT)N2以上の人材は月給800〜1,500USD(約12.4〜23.3万円)で、一般ワーカーの2〜3倍の給与水準になる。

「工場がある場所」から「人が住む場所」へ

ビンズオン省のように、工業団地の周辺で急速な都市化が進んでいるエリアもある。工場に通う労働者が集まり、住宅・商業施設・学校が後追いで建設される。「工業団地が都市をつくる」というパターンだ。

ビンズオン省の省都トゥーヤウモットは、10年前は田園風景が広がる地方都市だった。現在は高層アパートメントが建ち並び、イオンモールがある。日本の郊外のニュータウン開発と同じ構造が、ベトナムの工業地帯で起きている。


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