ベトナムで日本のカレーが「甘口」に改造された——ローカライズの現場
CoCo壱番屋のベトナム進出から見える、日本食の現地適応の実態。甘口化、トッピングの変容、価格設定の壁。日本食がベトナムで生き残るための変容を追う。
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ホーチミンのCoCo壱番屋に入って、メニューを見て気づく。日本にはない「チーズエッグカレー」がある。甘口の比率が日本より高い。辛口を頼んでも、日本の中辛くらいの辛さだ。
日本食がベトナムに渡ると、味が変わる。しかもその変わり方には法則がある。
甘口化する日本食
ベトナム人の味覚は、日本人と比べて甘味への許容度が高い。ベトナムのコーヒーは練乳(コンデンスミルク)を入れて飲むのがデフォルトだ。フォーのスープに砂糖を入れる地域もある。
この甘味志向が、日本食のローカライズに影響する。
カレーの甘口化。 CoCo壱番屋のベトナム店舗では、甘口〜中辛の注文比率が日本より高い。辛さのスケールは同じ「1辛〜10辛」だが、ベトナムの「3辛」は日本の「1辛」に近いという声がある。
ラーメンの味変。 ホーチミンの日系ラーメン店では、スープにライムと唐辛子を入れて食べるベトナム人客がいる。フォーにライムを絞る習慣がそのまま持ち込まれている。
寿司の甘いソース。 ローカル向け寿司チェーンでは、マヨネーズベースの甘いソースがかかった巻き寿司が主力商品になっている。日本人が想像する「江戸前」とは別の進化を遂げている。
価格の壁
日本食レストランがベトナムで直面する最大の課題は、味ではなく価格だ。
ベトナムの外食の平均単価は30,000〜50,000VND(約$1.2〜2.1、約190〜325円)。路上のフォーは35,000VND(約$1.5、約230円)で食べられる。一方、日系ラーメン店の一杯は120,000〜180,000VND(約$5〜7.5、約775〜1,160円)。CoCo壱番屋のカレーは89,000〜150,000VND(約$3.7〜6.2、約575〜960円)。
ローカルフードの3〜5倍。この価格差をどう正当化するかが、日本食ビジネスの勝負どころになる。
「日本風」と「本格日本」の分岐
ベトナムの日本食市場は、大きく2つに分岐している。
ローカル向け「日本風」。 ベトナム人オーナーが運営。メニューは現地の味覚に合わせてアレンジ。寿司、焼肉、ラーメンの「日本っぽいもの」を手頃な価格で提供。1人あたり100,000〜200,000VND(約$4.2〜8.3、約650〜1,290円)。
在住外国人・富裕層向け「本格日本食」。 日本人シェフ在籍。食材を日本から空輸。1区のレタントン通り周辺やタオディエンに集中。1人あたり500,000〜2,000,000VND(約$21〜83、約3,200〜12,900円)。
この2つのレイヤーは客層がほぼ重ならない。ローカル向けの「日本風」を本格日本食と比べて批判するのは的外れで、それぞれが異なる市場ニーズに応えている。
レタントン通りの日本食街
ホーチミン1区のレタントン通りは「リトルトーキョー」とも呼ばれ、日本食レストランが集中している。居酒屋、寿司屋、ラーメン店、焼き鳥屋、うどん屋——200メートルの通りに数十軒が並ぶ。
この密度はバンコクのスクンビット通りと似ている。日本人駐在員のビジネスディナーや接待需要が支えている。
面白いのは、レタントン通りの日本食レストランの客層が変化していることだ。かつてはほぼ日本人だけだったが、最近はベトナム人の若者グループが増えている。日本のアニメやドラマの影響で「日本食を食べに行く」ことがファッションとして定着しつつある。
ローカライズの限界と可能性
日本食のローカライズには、変えていい部分と変えてはいけない部分の線引きがある。
甘さを調整する、トッピングを追加する、価格帯を下げる——これらは適応の範囲内だ。しかし、出汁の質を落とす、食材を安価な代替品に全て置き換える、衛生基準を下げる——これをやると「日本食」のブランド価値が毀損する。
ベトナムで成功している日本食チェーンは、このバランス感覚が上手い。コアの味は守りつつ、周辺部分を現地に合わせる。それは「譲れないもの」と「譲れるもの」の仕分けの技術だ。
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