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ベトナム人は世界で最もカラオケが好きな国民かもしれない

ベトナムのカラオケは日本のカラオケボックスとは似て非なるもの。路上カラオケ、接待KTV、自宅カラオケと、音楽が社会のあらゆる層に溶け込む構造を解説する。

2026-05-07
ベトナムカラオケ文化エンタメKTV

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ベトナムの住宅街を歩いていると、昼の2時からカラオケの音が聞こえてくる。

スピーカーの音量は日本の常識を軽く超える。歌っているのはおじさんだったり、若い女性のグループだったり、誰かの誕生日パーティーだったりする。近隣住民は気にしない——というより、明日は自分が歌う番だから文句を言いにくい。

ベトナムのカラオケ消費は東南アジアでトップクラスだ。正確な市場規模の統計は限られるが、ホーチミン市だけで数千軒のKTV(カラオケテレビ、日本でいうカラオケボックスに相当する業態)が営業しているとされる。

3つのカラオケ

ベトナムのカラオケは、大きく3つの層に分かれる。

路上・自宅カラオケ。 最もベトナム的な形態だ。ポータブルスピーカーとワイヤレスマイクのセットが50万〜200万VND(約3,300〜1.3万円)で買える。これを歩道に出して歌う。飲み会の延長で歌う。結婚式で歌う。葬式でも歌う。冗談ではない。ベトナムの葬儀では故人を偲んでカラオケが行われることがある。

KTV(カラオケボックス)。 日本のカラオケボックスに近い個室型だが、部屋のサイズが日本より大きい。10〜20人で使う部屋が主流で、フードとドリンクの注文が前提になる。料金は部屋代が1時間あたり10万〜30万VND(約660〜2,000円)に加え、飲食代が上乗せされる。ビジネス接待や友人グループの集まりに使われる。

高級KTV。 ホーチミンの1区やビンタン区にある「接待型KTV」は、日本のスナックやラウンジに近い業態だ。コンパニオンが同席し、料金は1人あたり100〜300USD(約1.6〜4.7万円)に跳ね上がる。日系企業の駐在員が接待で使うケースもあり、日本語が通じる店もある。

なぜベトナム人はこんなにカラオケが好きなのか

理由を一つに絞るのは難しいが、いくつかの構造的な要因がある。

ベトナムの社交は「集まって食べて飲む」が基本形だ。カラオケはその延長線上にあり、「一緒に歌う」という行為が関係性の確認になっている。日本の飲み会で「一緒に飲む」ことが仲間意識を生むのと同じ構造だ。

もうひとつは住宅事情。ベトナムの都市部では路地裏の狭い家に3世代が同居するケースが多い。プライベートな娯楽空間が限られる中で、カラオケは「自分の表現の場」として機能している。

さらに、音楽に対するハードルの低さ。ベトナム人は歌がうまいかどうかをあまり気にしない。下手でも堂々と歌う。この心理的ハードルの低さが、参加率を押し上げている。

騒音問題という社会課題

カラオケ愛は、深刻な社会問題にもなっている。

2023年にベトナム政府は「カラオケの騒音に関する政令」を強化し、住宅地での夜間のカラオケに罰則を設けた。ホーチミン市では住宅街での騒音に対する通報が年間数千件に上り、隣人トラブルが暴力事件に発展するケースも報道されている。

政府が規制を強化しても、実効性には限界がある。文化に罰金で対抗するのは難しい。日本で路上喫煙を条例で禁止しても完全にはなくならないのと似ている。

在住日本人の「カラオケ体験」

ベトナムに住む日本人にとって、カラオケは避けて通れない文化だ。

取引先のベトナム人に「飲みに行きましょう」と誘われると、高確率でKTVに連れて行かれる。日本の歌のレパートリーがあると喜ばれるし、ベトナム語の歌に挑戦すると場が盛り上がる。「Nối Vòng Tay Lớn」(チン・コン・ソン作曲の国民的名曲)のサビだけでも歌えると、一目置かれることがある。

逆に、住宅街に住んでいる場合は隣家のカラオケに悩まされる可能性がある。防音がしっかりしたアパートメントを選ぶのは、ベトナム生活のライフハックのひとつだ。

音楽は、その国の社会構造を映す鏡だ。ベトナムのカラオケには、集団主義と個人の表現欲求が同居している。


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