ベトナム人が電話番号に200万円払う理由——数字信仰が動かす見えない経済
「8」が入った車のナンバープレートに数百万円、縁起の良い電話番号に200万円。ベトナムの数字信仰(迷信)が不動産、ビジネス、日常生活にどう影響しているかを解説する。
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ベトナムのオンラインマーケットで、携帯電話番号が売られている。「0988 888 888」のような8のぞろ目は数千万VND($1,000〜数万ドル)。8が4つ並ぶだけで200万円を超えることもある。
日本でも「4」を避ける習慣はあるが、ベトナムの数字信仰はもう少し実生活に深く入り込んでいる。
好かれる数字、嫌われる数字
ベトナムの数字の吉凶は、中国文化の影響を受けつつ、独自の体系を持つ。
8(bát)。 中国語の「発(fā・発財)」と音が近く、富と繁栄を意味する。最も人気が高い数字。車のナンバープレート、電話番号、住所に8が多いほど縁起が良いとされる。
9(cửu)。 「久(jiǔ・長く続く)」と音が近い。永続性・長寿を象徴する。結婚式のご祝儀に9のつく金額を包むことがある。
6(lục)。 「禄(lù・俸給)」と音が近い。安定した収入を意味する。
4(tứ)。 中国と同じく「死(sǐ)」と音が近いとされ、避けられる。ただしベトナム語の「4(tứ/bốn)」と「死(tử)」は日本語や中国語ほど音が近くないため、忌避の度合いは中国や日本より弱い。
7(bảy)。 旧暦7月は「鬼月(tháng cô hồn)」。この月は幽霊が現世に戻ってくるとされ、引っ越し、結婚、新車購入、事業開始を避ける人が多い。
ナンバープレート経済
ベトナムでは2023年から車のナンバープレートがオークション制になった。それ以前は交通局で割り当てられていたが、「良い番号」を求める非公式な取引(事実上の闇市場)が横行していたため、政府が公式にオークション化した。
初回オークション(2023年9月)では「51K-888.88」のナンバーが約320億VND(約$1.3百万、約2億円)で落札された。車自体よりナンバープレートの方が高い。
このオークション収入は国庫に入る。ベトナム政府はある意味で、国民の迷信をマネタイズしたことになる。
不動産と風水
ベトナムの不動産市場では、物件の階数、部屋番号、住所の数字が価格に影響する。
8階の部屋は同じ間取りの4階や7階より高い。住所に8が入っている物件は、入っていない物件より賃料が高くなることがある。外国人にとっては理解しにくいが、ベトナム人テナントを想定する大家は数字を意識する。
風水(phong thủy)の影響はさらに大きい。建物の向き、入口の方角、水回りの位置——新築物件の設計段階で風水師が関与することは珍しくない。ホーチミンのタワーマンションでも、風水コンサルタントが入居者にアドバイスを提供するサービスが存在する。
「鬼月」のビジネスインパクト
旧暦7月(新暦では通常8月〜9月頃に該当)は「鬼月」と呼ばれ、ベトナムの経済活動に目に見える影響を与える。
不動産の取引件数が落ち込む。新車の登録台数が減る。結婚式の予約が激減する。開業日を鬼月に設定する企業はほとんどない。
在住日本人がこの時期にマンションの契約を結ぼうとすると、「来月にしませんか」と大家から提案されることがある。迷信だと分かっていても、大家がベトナム人であれば、鬼月の契約は避けたいのが本音だ。
逆に考えると、鬼月は「他の人が避けるから競争が少ない」タイミングでもある。鬼月に引っ越しを決めれば、家賃交渉で有利になることがある。
数字が作る「見えない経済」
数字の吉凶に経済合理性はない。「8」が並んでいるから商売が繁盛するわけではない。しかし、多くの人がそう信じて行動すると、結果として市場が動く。電話番号の価格が上がり、不動産の価格差が生まれ、特定の月の取引量が変動する。
信じる人が多ければ、迷信は経済的な「事実」になる。ベトナムの数字信仰は、合理性と非合理性の境界線がどこにあるのかを考えさせてくれる。
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