ハノイの大気汚染——AQI300超えの日に在住者はどう対処しているか
ハノイは世界で最も大気汚染が深刻な都市のひとつ。AQIが300を超える日も珍しくない。汚染の原因、健康への影響、在住者が取っている対策を現地目線で解説する。
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IQAir(スイスの空気質モニタリング企業)の2024年版世界大気質レポートで、ハノイはPM2.5の年間平均濃度がWHO基準値の約7倍でした。東京の約4倍。バンコクの約1.5倍。同じ東南アジアの首都でも、ハノイの大気汚染は別次元です。
季節で変わる空気
ハノイの大気汚染には明確な季節パターンがあります。
最悪期(11月〜3月): 冬季は気温の逆転層(上空の気温が地表より高い)が発生し、汚染物質が地表付近に滞留します。AQI(Air Quality Index)が200〜300を超える日が連続することがあります。AQI 300は「すべての人にとって健康に有害(Hazardous)」のレベルです。
比較的良い時期(6月〜9月): 雨季は降雨が汚染物質を洗い流し、南西の季節風が空気を入れ替えます。この時期のAQIは50〜100程度まで下がることが多い。
つまり、同じハノイでも夏と冬で体感的に別の都市のような空気の差があります。
汚染源は複合的
ハノイの大気汚染は単一の原因ではなく、複数の要因が重なっています。
交通排気: 約700万台のバイクと増加する自動車。古いバイクには排ガス規制が適用されておらず、2ストロークエンジンの旧型車がまだ走っています。
建設工事: ハノイは急速な都市開発の最中で、市内各所で高層ビルや道路の建設が進行中。工事現場からの粉塵が常に舞っています。
稲わらの野焼き: ハノイ近郊の農地で収穫後の稲わらを燃やす慣行があり、秋(10〜11月)に煙が市内に流入します。政府は禁止を呼びかけていますが、完全には止まっていません。
工場排気: ハノイ周辺の工業地帯からの排気。特にセメント工場やレンガ工場が問題視されています。
在住者の対策
ハノイに住む日本人が実際に取っている対策を挙げます。
空気清浄機: AQI 100を超える日が続く冬季は、部屋に空気清浄機を置くのがほぼ必須です。ハノイの家電量販店で購入できます。シャオミ製が人気で、価格は2,000,000〜5,000,000VND(約USD 80〜200、約12,400〜31,000円)。寝室とリビングに1台ずつ置く家庭が多い。
マスク: N95またはKF94マスク。AQI 150を超える日は外出時に着用する人が増えます。
AQIアプリの確認: IQAirやAirVisualで朝起きたらまずAQIをチェック。AQI 200以上の日は子どもの外遊びを控える、ジョギングを室内に切り替えるなどの判断をします。
子どもへの影響
家族帯同でハノイに駐在する日本人にとって、子どもの健康リスクは最大の関心事です。
WHO の研究では、PM2.5への長期曝露が小児喘息のリスクを高めるとされています。ハノイの日本人学校や国際学校は、AQIが一定値を超えた日に屋外活動を中止するガイドラインを設けています。
この問題を理由に、家族はホーチミンに置いてハノイに単身赴任するケースもあります。ホーチミンもPM2.5の問題はありますが、ハノイほど深刻ではありません。
改善は進むのか
ベトナム政府は2030年までにハノイのPM2.5濃度を年間平均25μg/m³以下にする目標を掲げています(2024年時点の平均は約35μg/m³)。バイクの排ガス規制強化、電動バイクの普及促進、稲わら野焼きの段階的禁止などが対策として挙げられています。
VinFast(ベトナムの電動車メーカー)が電動バイクの販売を拡大しており、ハノイの街中でも電動バイクを見かける頻度は増えています。ただし、現時点で電動バイクのシェアは全体の5%未満と推定されており、700万台のバイクが入れ替わるには時間がかかります。
冬の朝、窓の外が霞んで50メートル先が見えない日がある。それが霧なのかスモッグなのか、慣れた在住者は匂いで判断できるようになると言います。