ハノイのテクノロジー・スタートアップシーン
ベトナムの首都ハノイはホーチミンとは異なるスタートアップ文化を育てている。政府系ファンド・大学発ベンチャー・日系IT企業の進出状況を在住者視点で整理します。
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「ベトナムのスタートアップ」といえばホーチミンが話題の中心になることが多い。MoMo(モバイル決済)、Tiki(EC)、Ahamove(配送)——これらの著名スタートアップの本社はいずれもホーチミンだ。ただ、ハノイに拠点を置くと、別の種類のIT産業の厚みに気づく。
ハノイの強みはエンジニアの供給源
ハノイがベトナムのテック人材の「生産地」として機能している背景には、理工系大学の集積がある。
ハノイ工科大学(Hanoi University of Science and Technology)、ハノイ国家大学工学部(HUST)——これらの大学は毎年数千人規模のエンジニアを輩出する。ソフトウェア開発の受託業(オフショア開発)という形で、ハノイのIT産業は1990年代末から成長してきた。
FPT Software、Viettelなど、ハノイ発の大手IT企業が日本・欧米向けのオフショア開発で実績を積んできたのも、この人材供給の厚みがあってのことだ。
政府と大学が連携したエコシステム
ハノイのスタートアップ支援で特徴的なのが、政府主導の色が強い点だ。
「国家イノベーションセンター(NIC)」は2021年にハノイ郊外のホアラック・ハイテクパーク内に設立された。政府が直接運営するスタートアップ支援施設で、コワーキングスペース・インキュベーターの機能を持つ。入居企業には法人税優遇措置が適用される。
「Startup Wheel」「Vietnam Startup Festival」などのイベントはホーチミン中心だが、ハノイでも「Vietnam Innovation Summit」等が年1回開催されており、政府・大学・投資家が一堂に会する。
民間VCによるシードファンディングはホーチミン勢に比べると少ないが、政府系ファンドや大企業のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)がその役割を補完している構図だ。
日本とのつながり
日本とハノイのテックシーンの接点は、オフショア開発が入口になることが多い。
ハノイの主要オフショア企業(FPT, VNPT Technology等)は日本語対応チームを持ち、日本のSIerや中小企業向けのシステム開発を受託している。「日本語が話せるエンジニア」の市場価値はハノイで際立って高く、日本語N3レベルで月給が20〜30%上がるという話は珍しくない。
逆方向の流れとして、日本のIT企業がハノイに開発拠点を設ける動きも続いている。2024〜2025年にかけて、中規模のSaaSスタートアップがハノイにエンジニア採用拠点を開くケースが増えている。理由は「ホーチミンよりエンジニアの流動性が低く、長期雇用しやすい」という声だ。
ハノイでスタートアップに関わる選択肢
日本人がハノイのテックシーンに関与する場合、現実的なルートはいくつかある。
- 日系IT企業の現地拠点勤務: 最も安定したルート。ビザのサポートが得られる
- ベトナムIT企業へのBD・マーケティング採用: 日本向けビジネス開発担当として採用されるケース。英語+日本語の組み合わせが評価される
- フリーランス開発者としての常駐: ノマドビザ的な形態。ただしベトナムには長期フリーランスビザが制度として整っていないため、在留資格の管理に注意が必要
ハノイのスタートアップシーンは「数の多さ」ではなくエンジニアの層の厚さと大企業との連携が強みだ。派手なデモデイより、地道なオフショア契約の積み上げがこの都市の産業を支えている。