テト(旧正月)——ベトナムが1週間止まる年中最大の行事
テト(旧正月)はベトナムの正月。1週間以上の連休で企業も店舗も止まる。テトの準備、風習、在住日本人への影響、知っておくべき注意点まで。
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毎年1月下旬〜2月中旬のある日、ホーチミンからバイクが消えます。あの800万台のバイクが。普段は交差点を埋め尽くす二輪車の洪水が嘘のように引き、道路がガラガラになる。テト(Tết Nguyên Đán、旧正月)が始まった合図です。
テトの日程
テトは旧暦の正月に合わせて毎年変動します。2026年のテトは2月17日(旧暦1月1日)。公式の祝日は5日間ですが、多くの企業や店舗は前後を含めて7〜10日間休業します。
ベトナム政府は毎年秋頃にテト休暇の公式日程を発表しますが、実質的にはテトの1〜2週間前から仕事のペースが落ち始めます。取引先への支払い、在庫の確保、帰省の準備——テト前の1週間は、ベトナム人にとって一年で最も忙しい時期です。
帰省ラッシュ
テトは家族で過ごす行事です。都市部で働く地方出身者が実家に帰るため、テト前の1週間にホーチミンやハノイから大規模な人口移動が起きます。
長距離バスは通常の2〜3倍の料金になり、それでも満席。航空券もテト前の1週間は通常期の2〜4倍に跳ね上がります。ホーチミン〜ハノイ間の片道航空券が通常USD 50〜80(約7,750〜12,400円)のところ、テト前にはUSD 200〜300(約31,000〜46,500円)になることも珍しくありません。
テトの過ごし方
テトには決まった風習があります。
大晦日(Giao thừa): 家族で食卓を囲み、新年のカウントダウンをする。テレビの特番を見ながら花火を待つ。ホーチミンやハノイでは、午前0時に大規模な花火が打ち上げられます。
元日: 朝早く起きて、家族の年長者に新年の挨拶をする。子どもたちは「リーシー(Lì xì)」と呼ばれる赤い封筒に入ったお年玉をもらう。金額は50,000〜500,000VND(約USD 2〜20、約310〜3,100円)が目安です。
初詣: 仏教寺院や道教の廟にお参りする「đi chùa」の習慣。テト期間中の寺院は非常に混雑します。
バインチュン(Bánh chưng): 北部の正月料理。もち米、豚肉、緑豆をバナナの葉で包んで四角く蒸した料理で、テトのシンボルです。南部ではバインテト(Bánh tét、円筒形)が主流。
在住日本人への影響
テト期間中は以下の点に注意が必要です。
店舗・レストランの休業: ローカルの店はほぼ全て閉まります。外国人向けのレストランやカフェは営業しているところもありますが、数は限られます。コンビニ(ファミリーマート、ミニストップ等)は短縮営業で開いていることが多い。
家事代行・運転手の帰省: メイドさんやドライバーを雇っている駐在員家庭では、テト前にボーナス(1ヶ月分の給与が目安)を渡すのが慣習です。テト期間中は不在になるため、自分たちで家事をする準備が必要になります。
工場の停止: 製造業に関わる駐在員にとって、テト後の工場再稼働の遅れは毎年の課題です。テト休暇中に地方の実家で過ごした労働者の一部が、テト後に戻ってこないことがあります。転職のタイミングをテトに合わせる人が多いためです。
ATMの混雑: テト前にATMは長蛇の列になります。従業員への給与・ボーナスの支払いが集中するため、ATMが現金切れを起こすこともあります。
テトの静けさ
テト期間中のホーチミンは、別の都市のように静かです。人口の3〜4割が帰省するとされ、バイクの音も、クラクションも、屋台の呼び声も減る。普段は歩けない歩道を歩けるようになり、普段は見えない空が見えるようになる。
在住者の中には「テトのホーチミンが一番好き」という人がいます。年に一度だけ現れる、静かな大都市。1週間後にはいつもの喧騒が戻ってきますが、その落差がベトナムの新年を印象深いものにしています。