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ホイアンのオーバーツーリズム——世界遺産の街が抱える観光客問題と住民の声

年間500万人超が訪れるホイアンで、住民は何を感じているか。夜間観光の制限、移り住む外国人、家賃高騰の現実を現地目線で伝える。

2026-04-29
ホイアンオーバーツーリズム世界遺産ベトナム観光旅行者

この記事の日本円換算は、10,000VND≒95円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(VND)の金額を基準にしてください。

世界遺産に登録されたホイアン旧市街は、夜になるとランタンの灯りで染まる。その光景を収めるために、年間500万人超の観光客が訪れる。問題は、その観光客の多くが街に住む約9万人の住民と同じ道を歩いているという事実だ。

観光客と住民の「共存」の限界

ホイアン旧市街はユネスコ世界遺産(1999年登録)に指定されており、建築物の改修には厳しい制限がある。観光業の拡大に伴い、旧市街内の土地や住居の賃料が急騰した。

地元住民の間では「旧市街から引っ越さざるを得なくなった」という話が珍しくない。観光客向けに改装されたカフェや土産物店が増えた結果、かつて生活の場だった通りが「テーマパーク」になりつつある——という表現を現地で耳にすることがある。

ホイアン市の観光客数は公表データで2019年に過去最高の約500万人を記録した(2020年はコロナ禍で激減)。2023〜2024年にかけて観光需要は急回復しており、旧市街の混雑は以前と同水準以上に戻っているとされる。

入場制限と夜間規制

ホイアン市当局はオーバーツーリズムへの対策として、いくつかの制限を導入している。

旧市街への自動二輪・自動車の乗り入れは特定時間帯に禁止されている(徒歩・自転車のみ)。また一部の時間帯には車両を完全に締め出すペデストリアン・ゾーンを設けている。入場料(旧市街観光券)は1人12万VND(約1,140円)で、指定施設への入場をコントロールする仕組みになっている。

ただし、観光客の流入そのものを制限する手段は限られており、週末や連休には歩行者が肩を寄せ合うほど混雑する状況が続いている。

移り住む外国人と「ジェントリフィケーション」

ホイアンは観光地としての知名度が上がるにつれ、外国人の長期滞在・移住先としても人気が高まった。

カフェやゲストハウスをオープンする外国人オーナーが増えた2010年代以降、旧市街および周辺エリアの賃料は大幅に上昇した。現地住民から見ると「外国人が家賃を吊り上げている」という感覚が生まれやすい構造がある。

これは世界各地の観光地都市に共通する「ジェントリフィケーション(高級化による住民移転)」の問題と本質的に同じだ。

日本人在住者・旅行者の視点

ホイアンには日本人旅行者だけでなく、長期滞在・居住する日本人も一定数いる。カフェや日本食店の経営者、フリーランスのリモートワーカーが多い。

在住者によれば「5〜10年前と比べると家賃は2〜3倍になった」という声もある。観光需要の恩恵を受けながら、生活コストの上昇とも向き合う状況だ。

旅行者として訪れる立場からは、「観光客が観光を消費している」構造を意識するだけでも、街の見え方が変わる。ランタン祭り(旧暦毎月14日前後)を見に行くなら、シーズンを外した平日に訪れる、旧市街の外の地元向けの食堂を使う——こういった選択が、住民との共存に向けたわずかな貢献になる。

世界遺産の「消耗」という問題

ベネチア、バルセロナ、バリ島——オーバーツーリズムが社会問題化した都市に、ホイアンの名前が加わりつつある。

世界遺産の価値は「そこに住む人の生活と歴史が継続している」ことにある。観光客が増えすぎて住民が出ていけば、街は本物の世界遺産ではなくレプリカになる。ホイアン市当局がこのジレンマにどう答えを出すか、数年以内に方向性が見えてくるだろう。

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