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ベトナムの伝統工芸村——陶芸・シルク・漆器と在住者の体験

バッチャン(陶器)、ヴァンフック(シルク)、ドンキー(漆器)などベトナムの伝統工芸村を在住外国人の視点で紹介。観光と生活の間にある工芸村との関わり方。

2026-04-26
伝統工芸バッチャン陶芸シルクハノイ近郊

この記事の日本円換算は、1USD≒155円で計算しています(2026年4月時点)。現地での細かい買い物はVND(1VND≒0.006円)で支払います。

ハノイに住んで1年が経った頃、知り合いのベトナム人に「バッチャンに行ったことある?」と聞かれた。「もちろん、観光で」と答えたら、「観光で行くのと、作り手と知り合いになってから行くのとでは全然違う」と言われた。

その言葉は正しかった。

バッチャン——陶器の村

ハノイ市内から約14km、紅河の畔に位置するバッチャン村は、700年以上の歴史を持つ陶器の産地だ。青白磁の器、蓮の花を描いた茶碗、龍のモチーフの花瓶——これらはベトナム土産の定番になっているが、現地で生産されている量と種類は観光客向け店舗で見えるものの何倍もある。

観光客向けの市場エリアと、実際に窯を持つ工房エリアは分かれている。工房の多くは家族経営で、3〜4代にわたって同じ技法を受け継いでいる。在住者として何度も通ううちに工房のひとつと顔なじみになれば、注文制作の依頼ができるようになる。「この形でこの柄を100個」という受注に応えてもらった日本人在住者もいる。

価格は観光客向けショップの半分以下になることも珍しくない。ただし交渉ではなく、継続的な関係の中で生まれる価格差だ。

ヴァンフック——シルクの村

ハノイから南西約10km、ヴァンフック村は絹織物の産地として知られる。高級シルクのアオザイや、テーブルクロス・スカーフなどが作られている。

工場直売のシルク価格は、ホーチミン市のドンコイ通りのブティックで買うものとまったく違う。品質で比べると、村の直売品の方が上のことも多い。見分け方のひとつはひっかき試験。シルクは爪で引っかくと静電気が起きず、ポリエステル混紡は起きる。ただし実際には触感と艶で判断する方が確実で、これは何度か手にとるうちに感覚が育ってくる。

オーダーメイドのアオザイを作るならヴァンフックの職人に頼む選択肢がある。採寸してから1週間程度で仕上がることが多い。費用は生地と工賃込みで USD 80〜200(約12,400〜31,000円)程度。ハノイ市内の仕立て屋より安く、素材の選択肢が広い。

ドンキー——漆器の村

ハノイから北東約35km。漆器(ソン・マイ)の産地として歴史がある。漆器のトレイ、箱、パネル画——伝統的なベトナム漆器の多くはここで作られている。

漆器は工程が多く、時間がかかる。高品質なものは10〜20工程を経て仕上げられ、制作期間は数週間から数ヶ月。在住外国人が土産として持ち帰るものとして漆器はかさばるが、軽量で壊れにくい特徴がある。

工芸村と在住者の距離

観光で一度行くと「いい買い物ができた」で終わるが、在住者として何度も通うと見え方が変わってくる。工芸村は「観光スポット」ではなく、今も続く生産現場だ。

後継者問題、海外製の安価な模倣品との競争、若者の都市流出——どの村でも似た課題を抱えている。それを知った上で足を運ぶと、1枚の皿を選ぶ意味合いが少し変わる。

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