水上人形劇——ベトナム北部の伝統芸能と現代での継承
水田に生まれ、1,000年以上続くベトナムの水上人形劇(ムアロイヌオック)。ハノイのホアンキエム湖畔で毎日上演されるその内側に、伝統文化の継承と観光産業化の緊張関係がある。
ベトナム北部の紅河デルタ地帯で生まれた水上人形劇(Múa Rối Nước)は、水田という生産の場から生まれた芸術だ。農民が稲刈り後の水田を舞台に、人形を水面で操って祭りを祝ったのが起源とされ、11世紀の石碑にその記録が残っている。
人形は水の中に隠れている
水上人形劇の技術的な核心は、「人形を操る仕組みが水面下に隠れている」点にある。演者は腰まで水に浸かったまま、約9mの竹または金属の棒と複雑なロープ機構で人形を操る。竹の「すだれ」(giàng)が演者と観客を仕切り、操作の手元は見えない。
人形の素材は無花果科の軽い木(sung)が伝統的に使われ、ラッカーで防水加工される。一体の重さは数kgから十数kgまでさまざまで、特に複雑な動きをする演目では複数人で一体を操る。
演目はドラゴン、フェニックス、農民の日常、蛙の合唱、魚釣りなど、農耕社会の神話・祭事を題材にしたものが多い。背後では生演奏が続き、笛・太鼓・古箏(đàn tranh)の音が演技と絡む。
ハノイの劇場と「観光化」の評価
現在、最も整備された公演会場はハノイのホアンキエム湖北側にある「タンロン水上人形劇場(Nhà hát Múa rối Thăng Long)」だ。1週間に複数回、場合によっては1日3〜4回の上演が組まれており、チケット料金は外国人向けが10万〜20万VND(約950〜1,900円)程度。
「観光客向けになりすぎた」という批判が在住者の間では出ることもある。上演時間は約45〜60分に凝縮され、演目は定番のものが繰り返される。昔の農村祭りで数時間続いた公演とは性格が変わっている。
ただ、観光化によって演者の収入が安定し、技術の後継者が育つという側面もある。ホーチミンや省都レベルの劇場でも公演が維持されているのは、観光産業との連携があるからだという見方もできる。どちらが「正しい継承」かというより、現代での生存戦略として観光化を選んだ側面が大きい。
農村での「本来の」上演
ハノイから車で1〜2時間の紅河デルタ地帯の農村では、今も祭事の場に水上人形劇が呼ばれることがある。地方の廟(ディン)の前にある方形の池が、本来の舞台だ。
農村の祭りに参加する機会があれば、ハノイの劇場とは違う空気感を体験できる。観光向けの演目ではなく、地域の信仰と結びついた演目が演じられることもある。ただし日程や場所は事前に調べる必要があり、ベトナム語のインフォメーションが前提になる。
在住者が参加できる体験
ハノイに住んでいるなら、「水上人形劇のワークショップ」を提供しているNGOや文化センターがある。演者学校を持つ劇団が不定期で体験クラスを開いており、実際に竹竿で人形を操作してみることができる。ベトナムの文化に深く触れたい在住者には、観覧より参加型の体験の方が記憶に残る。
情報はハノイ在住の日本人コミュニティのSNSグループや、ベトナム文化スポーツ観光省のウェブサイトで確認できる。
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