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63の省が34になり、郡が消えた——ベトナムが2025年に国の地図を書き換えた話

2025年7月1日、ベトナムは省を63から34に統合し、行政の中間層である「郡」を丸ごと廃止した。地図を描き直すという手段で何を解こうとしたのか。

2026-10-05
行政政治制度ベトナム

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2025年7月1日、ベトナムの地図が変わりました。

63あった省・中央直轄市が34になりました。28の省と6つの中央直轄市。11の省級行政単位はそのまま残り、残る52が23に統合された結果です。

そしてもう一つ、地図には現れない変更がありました。省と村(社・コミューン)のあいだにあった「郡(district)」という行政層が、丸ごと廃止されました。三層だった地方行政が、省と社の二層になりました。

社・区レベルの単位も、およそ3分の2が統廃合されています。

これは行政区画の微調整ではありません。国家の骨格を一度解体して組み直す規模の再編です。

何を削ったのか

改革の論理は、階層の削減にあります。

従来、ベトナムの地方行政は中央→省→郡→社という四段構成でした。書類はこの段を一つずつ上がり、決定は一つずつ降りてくる。

階層が一つ増えるたびに、承認の待ち時間、書類の転記、担当者間の解釈のずれ、そして裁量の発生する地点が増えます。組織論でいう伝言ゲームの誤差が、段の数に応じて蓄積されます。

郡の廃止は、この段を一つ抜くことで伝達距離を短縮する試みです。省が直接、社を管轄する。

同時に省の数を減らしたのは、省側の負荷を調整するためだと考えられます。郡を経由せず社を直接見るなら、省が見る単位の数が増える。省の数を減らして一つ一つを大きくすれば、大きな省が多数の社を統括する体制になります。

構成としては、細かい中間管理職を減らして、部門を統合し、管理範囲を広げた組織改編に近い形をしています。

「小さな省」問題

省の数がそもそも多すぎた、という指摘は以前からありました。

省が増えていった背景には、地域ごとの要求への対応があります。人口が増えた地域を分割する、地理的に離れた地域に独自の行政単位を与える、といった判断が積み重なって63になりました。

ただ、省が一つあると、省の人民委員会、省の各種部局、省議会(人民評議会)、そして省庁舎が必要になります。行政機能が省ごとに一式そろう。

省が多いと、この一式が国全体で何十セットも重複します。人口が少なく経済規模の小さい省でも、フルセットの行政機構を維持しなければならない。

統合の狙いの一つは、この重複の削減です。政府が挙げている目的にはコスト削減、効率向上、手続きの簡素化、そして汚職の抑制が含まれています。

汚職の抑制が目的に入っているのは、裁量の発生地点を減らすという考え方と関係しています。承認を必要とする段が少なければ、承認の対価を求める余地も減る——という論理です。実際にそう機能するかは別の問題ですが、設計意図としては明確です。

ドイモイの延長線上にあるもの

この改革を1986年のドイモイ(刷新)の系譜に置くと、ベトナムの制度改革のパターンが見えてきます。

ドイモイは経済の制度を書き換えました。計画経済から市場のメカニズムを取り込む方向への転換です。あれから約40年、経済側の構造は大きく変わりました。

一方、行政の構造は経済ほど速く変わっていませんでした。製造業の集積地として世界のサプライチェーンに組み込まれ、中間層が拡大している経済に対して、それを扱う行政の仕組みが追いついていない、という認識があったと考えられます。

工場の立地許可、環境評価、労働許可、土地の使用権。これらの手続きが四層の階層を通るあいだに時間がかかれば、投資先としての競争力が落ちます。中国以外の生産拠点を探す企業の受け皿としての地位を保つには、手続きの速度が資産になります。

つまりこの行政改革は、経済の要求に制度を合わせる作業として読めます。

在住者に実際に起きること

制度改革は抽象的な話に見えますが、在住者の生活に具体的に届きます。

住所が変わった。統合された省の名前、統廃合された社の名前が変わっています。自分の居住地の正式な住所表記が変わっている可能性があります。銀行、保険、配送、契約書類のすべてに影響します。

手続きの窓口が変わった。郡が廃止されたため、以前は郡レベルの役所で行っていた手続きの窓口が移動しています。どこに行けばよいかが変わっているので、過去の経験や古い情報が通用しない場面があります。

古い情報が急速に陳腐化した。ブログ記事、解説サイト、日本語の移住情報。2025年7月より前に書かれたものは、省名・郡名・窓口の情報が旧体制のままです。一時居住カード(TRC)や労働許可の申請先も含めて、手続きの情報は改革後のものを確認する必要があります。

書類の名称が一致しなくなる。過去に発行された書類には旧行政区画名が記載されています。新しい書類と照合するときに名前が一致しない。不動産の権利証、出生証明、婚姻証明などで、この不一致が問題になることがあります。行政側も移行期の運用を整備しているところなので、窓口で確認するのが確実です。

地図を描き直すという手段

行政改革の手段として、地図そのものを書き換えるというのは、かなり強い介入です。

多くの国では、行政区画は歴史的経緯によって固定され、変更には強い政治的抵抗が伴います。市町村合併が何年もかけて議論されるのは、地名やアイデンティティ、職の配置、既得の権益が絡むからです。

ベトナムは、これを比較的短期間に、全国規模で実施しました。2025年4月に方針が決まり、7月1日に施行されています。

この速度が可能なのは、意思決定の構造がそれを許すからです。合意形成の手続きが長い政治体制では、同じことは何年もかかります。

制度を速く変えられる体制と、変えるべきかどうかを慎重に検討する体制。どちらにも失敗の形があります。速い体制は間違いも速く実装してしまい、慎重な体制は必要な変更も間に合わなくなる。

ベトナムがいま試しているのは、前者の強みを経済成長に使えるかという実験だと見ることもできます。南北で経済の性格が異なるこの国が、一つの行政様式でそれを扱えるのか。答えが出るのは、数年後の手続きの実際の速度でしょう。

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